経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 経済

新幹線の運賃は高すぎる? 移動の貧困を解消しなければ経済は成長しない(前編)

 日本経済が以前と比べて貧しくなっていることは、すでに多くの人が認識していると思いますが、こうした影響はあらゆるところに及んできます。

 先日、新幹線の運賃が高いという話がネットで話題となっていました。日本の公共交通機関の運賃は、経済体力に比して高すぎ、所得の低い人にとって利用できないものとなりつつあります。実は移動の容易さと経済成長には密接な関係があることが知られています。移動が滞ってしまうと、経済にマイナスの影響を与えかねません。

フランスでは東京-大阪間の距離を1300円で移動できる

 話題の発端となったのは、ホリエモンこと堀江貴文氏とひろゆきこと西村博之氏の対談です。両氏は日本の新幹線料金は高すぎると発言。パリ在住のひろゆき氏は、パリからベルギーのブリュッセルまで3500円で行けるという事例を紹介しました。

 ネット上では、「専用軌道を走り、時間も正確な新幹線と欧州の高速鉄道を比較しても意味がない」といった意見が多かったようですが、2人が言いたいのはそのようなことではありません。公共交通機関の運賃が、日本の経済体力に比して高すぎ、多くの国民にとって利用しずらいものになっているということが本意でしょう。

 実際のところ日本と諸外国で移動コストはどのくらい違うのか、東京-大阪を例に比較してみましょう。

 東京-大阪間の新幹線料金はのぞみの指定席の場合、約1万5000円です。東京と大阪の距離は約550キロですが、これを欧州にあてはめると、TGV(フランスの高速鉄道)のパリ-ボルドー間(567キロ)に相当します。

 TGVの運賃はいつの時点でチケットを買うのか、キャンセル制限がどうなっているのかで大きな差があり、出発直前にキャンセル自由のチケットを予約した場合、新幹線と大差はありません(ただし、1カ月以上先に予約した場合には7500円とかなり安くなります)。

 しかしながらTGVには、限定された列車に適用される格安料金が設定されており、場合によっては何と10ユーロ(約1300円)で乗れてしまいます。つまり東京-大阪を日本の10分の1の料金で移動できるわけです。新幹線にも学割や早特といった割引チケットが存在していますが、安いものでも1万円前後であり、TGVとは比較になりません。

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移動が滞ると経済も低迷する

 この格安料金は政策的に導入されているもので、ドイツなど他の欧州各国にもこうした格安チケットがあります。欧州には移動の権利を保障するという考え方があり、主に所得の低い若年層の移動を確保するための措置として活用されているわけです。

 この制度の基礎には基本的人権という考え方がありますが、移動を促進することには経済的な合理性もあります。

 GDPを成長させるためにはイノベーションの活性化が必須ですが、実はイノベーションの活性化と人の移動には密接な関係があります。イノベーションによって新しい産業が生まれ、そこに人が集まることで、さらに産業が発展するというのは、よく考えてみれば当たり前の話といってよいでしょう。

 移動が制限されてしまうことは、結果的に社会を貧しくしてしまいます。国民の移動を支援する政策について、もっと真剣に検討する必要があるでしょう。後編では、移動と経済成長の関係についてもう少し詳しく解説したいと思います(後編に続く)。

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