戦略という言葉の意味を知っていますか?

加谷珪一の知っトク経営学 第6回
【アンゾフの成長戦略論】

 チャンドラーの業績をさらに発展させ、本格的な戦略論を展開したのがアンゾフ(1918~2002)です。彼は、軍事用語であった戦略という言葉を経営の世界に定着させた一人です。
 
 今となっては当たり前のことになっていますが、戦略を持たない企業は市場で生き延びることはできません。戦略を立案することは経営者にとって何よりも大事な仕事ですが、この基本ができていない経営者が多いのも事実なのです。

戦略と戦術の違い

 「戦略」という言葉は軍隊において、ある軍事的な目的を達成するための総合的な方策のことを指しています。この言葉はやがてビジネスの世界に持ち込まれ、経営戦略というキーワードが生まれてきました。

 ビジネスの世界では、戦略という言葉は様々なニュアンスで用いられていますが、本当の意味は軍事の世界と同様、ある経営上の目的を実現するための、具体的な方策や道筋のことです。目標を実現するための枠組みと言い換えてもよいでしょう。

 つまり戦略というものをうまく機能させるためには、まずは、しっかりとした目的を定めることが重要となります。明確な目的がないまま具体策を考えてしまうと、いわゆる戦略なき経営に陥ってしまいます。

 戦略と似たような言葉に戦術というものがありますが、両者はまったく異なります。

 戦術は、戦略を実施するにあたり、個別のプロジェクトをどう進めるのかについて示したものです。戦略よりも規模が小さいですから、現場における個別の具体策と考えればよいでしょう。

 アンゾフは、企業は基本的に成長することを目的にしていると考え、そのためには戦略的な意思決定が重要だと主張しました。ここでいう戦略とは、製品の組み合わせや市場の選択といった部分に特に焦点が当てられています。つまり、どのような製品と市場を組み合わせれば、最大の成長を実現できるのかという話です。

Copyright(C)Keiichi Kaya

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4つの成長ベクトル

 その上でアンゾフは、企業が選択すべき事業領域について4つのマトリックスで提示しました。これは、企業の成長の方向(ベクトル)を示すので「成長ベクトル」ともよばれています。

 アンゾフのマトリックスは横軸に製品、縦軸に市場を取ります。製品の軸は、新しい製品と既存製品、市場の軸は、新規市場と既存市場に分けて考えます。それぞれの組み合わせによって、以下の4つの戦略が策定されます。

 ①市場浸透戦略
 ②製品開発戦略
 ③市場開拓戦略
 ④多角化戦略

 市場浸透戦略は、既存市場で既存製品のシェアを拡大するというものです。顧客の使用頻度を上げるような方法が最も多く用いられます。自社がもっとも得意とする分野を強化する戦略ですから、リスクは少ないですが、市場が飽和状態だとあまり成長は見込めません。

 製品開発戦略は、既存市場に新しい製品を投入していくやり方です。目新しさと言う要素がありますから、市場浸透戦略よりは高い効果が得られる可能性があります。自動車のモデルチェンジは、典型的な製品開発戦略です。

 市場開拓戦略は、既存の製品を新しい市場に投入していくというものです。男性用の商品を女性用に、若者向けの商品をシニア向けに展開するケースなどが該当します。製品は変えていませんが、投入する市場は未知数ですから、市場浸透戦略や製品開発戦略と比較すると、リスクは大きくなります。

 最後は多角化戦略で、まったく新しい市場に、新しい製品を投入していくやり方です。開拓する市場のポテンシャルが大きい場合には、極めて大きな成長機会がもたらされる反面、既存の市場や製品を利用することができないため、シナジー効果が低く、リスクも大きくなります。

 戦略について考える場合には、上記4つのうちどれに属するものなのか、常に意識することが重要です。

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