経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 経営論

組織名だけをコロコロ変える企業はアブナイ

加谷珪一の知っトク経営学 第5回
【組織は戦略に従う(チャンドラー)】

 前回、解説したGMとフォードの違いは、効率性を優先するのか、有効性を優先するのかという違いでした。こうしたビジネスの進め方の違いは、最終的には組織の違いという形になってあらわれてきます。

組織と経営戦略は深く関係している

 GMは、もともとはバラバラだった会社を集めた組織形態ですから、当然のことながら、まとまりに欠けていました。GMはそれを逆手に取り、車種ごとに特徴を明確化し、製品別のブランディングに成功したわけですが、企業としての統一性も一方では重要となってきます。

 車種ごとの特徴を出しつつ、全社的な整合性を確保する必要性から、同社は、部門ごとに独立性を持たせる事業部制という形態を採用しました。

 こうした一連の改革は、化学メーカーの米デュポンがGMを支援し、アルフレッド・スローンという名経営者をトップに据えたことで実現したのですが、事業部制そのものは、デュュポンがGMに先がけて導入したものです。しかしデュポンの事業部制導入の背景は、GMのそれとは少し違っていました。

 デュポンはもともと、黒色火薬やダイナマイトなどを製造する火薬メーカーでした。つまりフォードのように製品ラインナップを絞っていたわけです。しかし、第1次大戦後から、徐々に事業の多角化を進めるようになり、最終的には総合化学メーカーへと脱皮していきます。

 この過程において同社には、多数の工場や部門が乱立することになり、部門間の調整に手間取るようになってきました。こうした事態を回避するために考え出されたのが事業部制という組織です。つまり、デュポンの場合には、GMとは逆の理由で事業部制が模索されたわけです。

 米国の経営史家であるチャンドラー(1918~2007)は、GMとデュポンを中心に、シアーズ・ローバック社、スタンダード・オイル社における組織変遷を詳しく研究し、組織がどのようなメカニズムで形成されるのかを明らかにしました。

組織だけを変える企業は要注意

 チャンドラーが導き出した結論は、有名な「組織構造は戦略に従う」という一節に集約されています。

 GMやデュポンが事業部制を導入した当時は、まだ経営戦略という言葉はしっかりと定義されていませんでしたが、チャンドラーは組織というフィルターを通じて、企業の戦略というものをよりはっきりと定義しました。最終的に組織の形態というものは、その企業に戦略に最適化する形で変わってくるのです。

 組織というものが、企業の戦略に合致する形態になっているのであれば、組織の形態を観察することで、その企業の戦略もある程度は見通せることになります。

 組織の中には、長期間にわたって再編がほとんど行われていないところと、頻繁に体制を変えるところがあります。再編がほとんど行われていない組織は、ビジネスモデルが何十年も変化してない企業とみてよいでしょう。変化が激しい米国ではあまり例がありませんが、市場の変化が乏しい日本の場合には、こうした組織形態はよく観察されます。

 一方で戦略が大きく変わっていないのに、組織ばかりいじる企業もあります。最近の名刺には、○○グループ長、○×ユニット長など、従来にはない部署名や役職名が書いてあることが珍しくありません。しかし、よく組織を見ると、実は○×課、○×部と記載していた時代と、ほとんど変わっていないこともあります。

 すべてがそうではありませんが、こうした企業は要注意です。あまり実績を出せていない経営者が、何らかの改革を実施したというアリバイ作りで組織名だけを変えることがよくあるからです。

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