経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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クリーニング店の減少はコインランドリーだけが原因ではない

 クリーニング店のビジネスが厳しい状況に追い込まれています。直接的な原因はコインランドリーの台頭と言われていますが、それだけが原因ではありません。

 現在、日本には約10万のクリーニング店がありますが(2017年3月時点)、店舗の数はかなり少なくなっています。10年前は14万店舗、20年前は16万店舗でしたから、ここ20年で約4割も減った計算です。

 クリーニング店が減ったのは、日本人がクリーニング店に行かなくなったからです。2人以上の世帯の場合、1996年度には年間1万6000円のクリーニング支出がありましたが、2016年度は6600円まで落ち込みました。クリーニング料金はほとんど変わっていませんから、クリーニングに行く頻度や、出す衣類の数が減ったと考えるのが自然でしょう。

 単身者や共働き世帯は増加していますから、クリーニング店の需要が拡大してもよさそうなものですが、実際は逆の動きになっています。

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 日本政策金融公庫が実施した調査によると、約2割の人がクリーニング店をまったく利用していません。利用している人の中でも3割が半年から1年に一回という頻度になっており、4~5カ月に一度という人を加えると約半数に達します。しかも、利用していない人の中で、これまでに1度も使っていないという人は14%しかなく、残りはかつて利用していたものの、その後、利用しなくなった人たちです。

 クリーニング店を使わない理由としては、クリーニングが必要な衣類を着ない、自分で洗濯するので必要ない、節約のため、といった回答が多くなっています。自分で洗濯するという回答は高齢者が多いので、中年以下の世代については、節約かクリーニングが不要になったという理由です。

 クリーニングするような洋服を着ないというのは、職場のカジュアル化が進んだことが最大の要因と考えられますが、これは、もしかすると非正規社員へのシフトなど職場環境の変化が関係しているかもしれません。そうなってくると、多くのケースで経済的事情が関係している可能性が高くなってきます。

 クリーニング店への支出が減少する一方、コインランドリー市場は拡大が続いており、10年間で3割以上も増えました。こうした動きを受けて、コンビニ大手のファミリーマートは昨年11月、家電メーカーのアクアと提携し、コインランドリー事業に進出すると発表しています。

 コンビニの店舗数は極めて多く、他の業態とはケタが違います。他のコンビニも追随する可能性がありますから、そうなると全国にはさらに多くのコインランドリーが設置され、ますますクリーニング店に行く人は減ってしまうでしょう。

 このような状況においてクリーニング店が生き残るには、業態転換を図る必要があります。ひとつはECサイトと連携した業務用クリーニングと、もうひとつは高付加価値型クリーニングです。

 2018年2月15日、ZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイが、洋服の定期購入サービスを開始しました。米アマゾンもすでに同様のサービスを行っていますが、こうした定期購入サービスは、いずれ古着などにも展開されてくる可能性が高いでしょう。

 近い将来、新品、返品された新古品、さらに古着まで、あらゆるカテゴリーの洋服が同じプラットフォーム上で行き来することになり、洋服をめぐる巨大なシェアリング経済圏が出没することになります。そうなってくると大量の業務用クリーニング需要が発生するため、既存のクリーニング業界はこの部分にシフトするという選択肢があり得ます。

 一方、店舗型のクリーニング・ビジネスは、超高級品向けの専門クリーニング店に衣替えするところが増えるでしょう。ブランド品などに特化し、顧客の家までクリーニングを取りに行くというスタイルが標準化しているかもしれません。

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