需要をはるかに超えるペースで建設が続いていた賃貸用アパートに急ブレーキがかかっています。これでアパート建設バブルは終了となる可能性が高いですが、本当の問題はこれからです。賃貸需要がない地域に相続税対策で建てられたアパートは近い将来、空室に苦しむ可能性が高く、場合によってはあらたな不良債権問題を生み出すかもしれません。
国土交通省が発表した12月の住宅着工戸数によると、貸家(主にアパート)の建設は前年同月比で3.0%減と7カ月連続のマイナスとなりました。
ここ数年、アパート建設は賃貸需要をはるかに上回るペースで増えており、特に2016年は前年同月比で2ケタ台の伸びが続いていました。税金対策からアパート建設を急ぐ土地所有者が増えたことに加え、マイナス金利政策による収益低下に苦しむ銀行が、こぞってアパートローンを強化したことが原因です。
極端なケースでは、銀行と不動産会社が結託して、土地所有者に対して、強烈な営業をかけていたケースもあるようです。あまりの過熱ぶりに金融庁が危機感を持ち、昨年から事実上の行政指導に乗り出しました。銀行は基本的に金融庁の顔色を伺っていますから、行政指導後は融資を控える銀行が急増。着工件数は頭打ちになりました。
これでアパート建設ラッシュは一段落しましたが、問題が深刻化するのはむしろ数年後でしょう。その理由は一部のアパートが賃貸需要を無視して建設されているからです。
土地所有者の場合、アパートを建設することで相続税を大幅に削減できるケースがあります。政府は相続税の増税を進めていますから、一部の土地所有者は節税のため、賃貸需要の推移を考えずにアパートを建設しました。
アパートを建てた直後は、新築ですので、比較的容易に住人を募集することができます。しかし日本では今後、本格的な人口減少が始まりますから、それに伴って都市部への人の移動が激しくなります。一部の地域では極端に人口が減少する可能性が出てくるわけです。
そうなると、地方都市の郊外に建設されたアパートの一部は、10年後、著しい賃貸需要の低下に直面する可能性が高くなってきます。
先ほども述べたように空室の問題はすぐには顕在化しません。当初は大丈夫でも、10年くらい経過すると、徐々に空室が埋まりにくくなります。一方、近隣にある古いアパートは、さらに厳しい状況に追い込まれます。やがて、新築だったアパートにも空室化の波が押し寄せてきます。
人口減少が本格的に進んだ地域では、銀行が貸し付けた資金を回収できず、いわゆる不良債権化する可能性が出てきます。バブル崩壊後、銀行各行は不良債権処理に苦しみましたが、似たような状況に陥る地方銀行が出てくる可能性はゼロではないでしょう。
過剰に建設されたアパートがどの程度、不良債権化するのかは現時点では分かりません。しかしながら、銀行の基礎体力を超えるような事態となった場合には、何らかの支援策も必要となってくるでしょう。