経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 政治

異例の3期続投を目指し、習近平氏が着々と布石

 習近平国家主席の右腕として知られ、昨年10月の中国共産党大会で政治局常務委員を退任した王岐山氏が、再び政治の表舞台に復帰する可能性が高まってきました。
 中国共産党指導部には68歳定年の慣例がありますが、69歳の王岐山氏が再び要職に就いた場合、これが破られ、ひいては習氏の3期続投への道筋を付けることになります。

 王岐山氏は習氏が党総書記に就任した2012年の党大会で常務委員入りしています。党内序列は6位と常務委員の中では下から2番目ですが、現実にはナンバー2に近い実力を持っていました。実は習氏と王氏は、文革(文化大革命)によって習氏が下放されていた時代に知り合い、固い絆が出来たといわれています。

 王氏は常務委員就任と同時に中央規律検査委員会書記に就任。腐敗撲滅という習政権のスローガンをフル活用し、習氏と対立する政敵を次々と摘発していきました。つまり王氏は習政権の基盤を確立した最大の功労者なのです。

 習氏は、従来の慣例を破って、3期連続で総書記の座に着くことを狙っています。習氏は王氏を常務委員に留任させることで、既成事実を作ろうとしましたが、反対派の工作で実現しませんでした。王氏が政府の要職に就けば、ここで定年の慣例は破られますから、現在、64歳である習氏の3期続投への道を開くことになります。

 習氏は毛沢東氏を超えるという野心を持っていると噂されており、一連の粛正工作や今回の政局は文革を強くイメージしたものともいわれます。

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 中国メディアは1月29日、王岐山氏が、国会に相当する全人代(全国人民代表大会)代表に選ばれたと報じましたが、王氏は湖南省から選出されています。湖南省は毛氏の生まれ故郷であり、彼が文革の狼煙を上げた場所です。

 昨年12月には、習氏が北京の301病院に入院したという噂が流れ、緊張が走ったこともありました。301病院は文革時代、四人組(江青氏など毛氏側近で文革を主導したメンバー)が拠点にした病院で、現在も幹部専用病院として知られています。病死に見せかけた暗殺に使われたり、凄惨な粛正工作の拠点になることも多く、この名前は政局を連想させるものです。

 中国は広く、統治機構が複雑で、情報も不透明です。幹部を含め多くの人が、メディアで伝えられる要人動静を元に政局を判断しています。このため、北京を離れる、入院する、動静が伝えられなくなるといった変化は、政局の前触れである可能性が高く、一部の要人はこうした情報を積極的に権力闘争に用いています。

 実際、習政権が発足してからは、王氏の動静がメディアで伝えられなくなると、幹部が逮捕(粛正)されるというパターンが繰り返されました。このため王氏の動静が途切れると、幹部の一部は震え上がったといわれます。
 今回の入院騒動や王氏の湖南省からの復活は、権力闘争の一部として演出されている可能性があります。

 王氏は国家副主席に就任するとの噂ですが、もし実現した場合には、国家副主席の位置づけが大きく変わることになるでしょう。
 国家副主席は党ではなく政府の要職ですから、儀礼的な側面が強いものの、国務院との関係が密接になります。国務院は、かつて習氏と対立していた胡錦濤グループの拠点であり、国務院総理(首相)の李克強氏や、今回、常務委員に任命された王洋氏らの権力基盤となっています。

 胡錦濤グループは習政権に権力闘争を仕掛ける可能性はほぼなくなったといわれていますが、王氏が副主席となれば、胡錦濤グループへの強力な牽制球となるはずです。王氏は粛正工作でばかり名前を聞きますが、実は経済政策通としても知られています。もしかすると対米交渉など、実務面でも手腕を発揮するかもしれません。

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