パートなど非正規社員の給料が上昇する一方、正社員の給料はなかなか上がらないという、一種の逆転現象が起きています。背景にあるのは、終身雇用と年功序列をベースにした日本型雇用環境と慢性的な人手不足です。
人材大手各社は、2018年から一般事務派遣料金の大幅な引き上げに踏み切りました。値上げの直接的な理由は、労働契約法が改正され、5年を超える有期雇用の派遣社員を無期雇用に転換する必要が出てきたからです。
しかしながら、各社が大幅な値上げに踏み切ったのは、これだけが原因ではありません。慢性的な人手不足から派遣事務への需要が高まっており、派遣社員の賃金が上昇したことが影響しています。
2017年7~9月期における派遣社員の実稼働者総数は前年同期比で8.1%の増加でした(日本人材派遣協会調べ)。2016年は5.1%だったので、昨年から需要が大きく伸びていることが分かります。需要増加に伴って賃金も上昇しており、三大都市圏の10月における派遣労働者の平均時給は1652円と前年同月比プラス2.4%の伸びを記録しました(ジョブズリサーチセンター調べ)。
パートタイム労働者の賃金も上がっています。2013年と2016年の比較では、全労働者の時給は1.7%の増加にとどまったのに対して、パートタイム労働者の平均時給は約4.4%増加しています。
日本では同一労働、同一賃金が成立しておらず、正社員とそれ以外の社員との間には身分格差と揶揄されるほどの違いがあります。平均時給も正社員の方がはるかに高いですから、非正規社員の賃金増加は、これまでの格差を埋めているだけとの見方もできるでしょう。しかしながら、正社員の年収が低く、長時間のサービス残業が横行しているような企業の場合、実質的に派遣社員の方が時給が高いというケースも出てくるはずです。
非正規社員の賃金だけが上昇するのは、日本が特殊な雇用制度を採用しているからです。日本企業は終身雇用と年功序列を大前提としており、正社員に支払う賃金は事実上、固定費化しています。このため市場メカニズムによる価格調整は、昇給を抑制するといった消極的な形でしか行われません。
一方、派遣社員の料金やパートタイム労働者の賃金は市場メカニズムによって決まるので、供給がタイトになれば、当然、価格は上昇することになります。
企業にしてみれば、新卒で雇った社員は、基本的に定年まで抱えておかなければなりません。しかも、年功序列の賃金体系となっており、勤続年数が長い社員ほど給料が高くなってきます。このため日本企業は常に人件費が過剰になる傾向があり、経営側としてはできるだけ賃金は抑制する方向にならざるを得ないのです。
多くの日本企業では、正社員の給与は低く抑え、好景気の時には長時間残業で対処することによって、不況時の解雇を避けるというのが基本原則になっています。最近は、働き方改革で残業時間が減る傾向にありますが、それでも日本企業の残業時間は諸外国に比べると異様に長くなっています。日本企業で長時間残業が横行していることには上記のような構造的要因が関係しているのです。
つまり終身雇用や年功序列の賃金体系を撤廃しない限り、正社員の賃金は低いままになる可能性が高いでしょう。この先、人手不足はさらに深刻化することになりますから、正社員と非正規社員の給料が逆転するというのも珍しいケースではなくなっているかもしれません。