経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 文化

評論家の西部邁氏が死去。10年後のAI社会をどう論じるか期待されていたが・・

 保守派の論客として知られた評論家の西部邁氏が2018年1月21日、搬送された東京都内の病院で死去しました。多摩川で発見されており、自殺とみられています。

 戦後社会には、70年代以前の高度成長期と、その後に訪れたバブルに至る低成長期、ITをキーワードとする2000年以降のデフレ期という3つの区分がありますが、西部氏ほど時代の流れを象徴する評論家はいません。

 西部氏は保守派の重鎮といわれていますが、もともとは左翼の活動家として有名でした。東京大学に入学した西部氏は、全学連幹部に就任。60年安保闘争のリーダーとしてその名前が一気に知られます。その後、大学院に進学し、経済学者として活動を開始しましたが、この頃から保守的な思想に傾いていきました。

 西部氏の名前を多くの人が知るようになったのは、大衆批判を軸にした一連の評論活動でしょう。スペインの思想家であるオルテガ・イ・ガセットの著作「大衆の反逆」をモチーフにした「大衆への反逆」で論壇にデビュー。大衆社会を痛烈に批判し続けました。

 西部氏やオルテガが批判しているのは、いわゆる典型的な大衆ばかりではありません。社会の複雑化に伴って大量に出現してきた高学歴の専門家(専門バカといえば分かりやすいでしょうか)に対しても、手厳しく批判しています。

 テレビ朝日系列の「朝まで生テレビ」に出演するようになってからは、お茶の間にまで知られるようになりましたが、西部氏の思想の根底には、高度情報化社会、大衆化社会への懐疑というものが常に存在していたようです。

保守と右翼は違う?
 西部氏は保守の論客と呼ばれてきましたので、いわゆる右翼的な人と思っている人も多いのですが、必ずしもそうとは限りません。西部氏が主張するところの保守とは、西欧近代思想における保守思想のことを指していますから、いわゆる右翼的な人とは少々ニュアンスが異なります。

 西部氏は西欧流の保守主義をベースに大衆社会を批判してきましたが、彼の思いとは逆に、世界はより高度な大衆化社会へと邁進しました。
 一方で、グーグルの検索エンジンに代表されるように、革新的なテクノロジーを通じて新しい知性を構築しようという試みや、AI(人工知能)を使って人間の知性を超えようとする試みなど、従来にはなかった知の体系も生まれようとしています。

 西部氏は高度成長期に育ち、バブル期に言論人として名を馳せ、そしてIT時代に入ってからも言論活動を続けてきました。本格的な保守思想家として、10年後のAI社会をどう批判するのか楽しみでしたが、残念ながら帰らぬ人となってしまいました。

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