経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 社会

日本の景気が良くなっているというけれど・・・

 このところ日本の景気が良くなっているという話を耳にする機会が増えました。確かに四半期ごとのGDP(国内総生産)は7期連続でプラス成長だったのですが、なかなか実感が湧かないという人も多いようです。

いざなぎ景気を超えたのは、あくまで「長さ」
 GDPの連続プラス成長を受け、メディアには「いざなぎ景気超え」といった勇ましいタイトルが並んでいます。しかし、ここで言うところの「いざなぎ景気超え」というのは、景気拡大の期間を示しており、景気拡大の程度ではありません。まずはこの点について理解しておく必要があります。

 戦後有数の好景気だった「いざなぎ景気」は、1965年10月から1970年7月まで57カ月間継続しました。現在の好景気は2012年11月をボトムに、2017年の9月時点において58カ月間継続しましたから、いざなぎ景気を超えたという話になっています。

 しかし成長率そのものは当時とはだいぶ異なります。1960年代は、末期とはいえ高度成長期ですから、単純平均で約10%程度の成長率がありました。しかしながら、2012年から2017年については、せいぜい1.3%といったところです。
 消費者は、前年より稼ぎが増えたか、使えるお金が増えたかという部分で景況感を判断しますし、この考え方はGDP統計の本質にも合致しています。

 所得が増えていないのだから景気拡大を実感できないというのは、至極まっとうな考え方といってよいでしょう。

 日本人の所得が増えないのは、消費がなかなか伸びないからです。このところGDPが伸びているのは、好調な米国経済を背景に、輸出や設備投資が拡大し、企業の業績が拡大しているからです。つまり完全な米国依存型の景気ということになります。
 しかしながら、製造業の多くは、現地で最終製品を組み立てる「地産地消」の体制にシフトしていますから、かつてのように米国経済が拡大すると、日本からの輸出が飛躍的に大きく伸びるというわけではありません。

 企業は、稼いでいる地域の従業員の昇給を優先しますから、業績が拡大しても国内の賃金はあまり上昇しません。その結果、数字上は経済が拡大しているにもかかわらず、消費が活性化しないという状態が続きます。
 消費はGDPの6割を占める屋台骨ですから、消費が伸びないことにはどうしようもありません。これがGDPの数字と生活実感にギャップが生じる原因です。

 この話は、GDPの数字を細かく見るとよりハッキリしてきます。2017年7~9月期のGDPは、輸出や設備投資の増加で全体はプラス成長でしたが、個人消費はマイナス0.5%とボロボロでした。これは4~6月期の伸びが大きかったことの反動ですが、各期を平均しても個人消費はあまり伸びていないというのが実情です。

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本来はAI(人工知能)経済化に本気取り組むべきだが・・・
 このまま製造業の業績拡大が続けば、いずれは国内の従業員にも多少は恩恵が及びます。2018年の米国経済は大型減税などでさらに拡大する見通しですから、この点については期待が持てるかもしれません。しかし、この状態がずっと続くのかは微妙なところです。

 米国経済が失速してしまう可能性は低いですが、現在の世界的な好景気は短期的な循環による部分が大きく、2019年あたりにはピークアウトする可能性が高いと考えられます。そうなってくると、米国の景気拡大も多少は鈍化するでしょう。

 本来であれば、製造業の輸出が好調なうちに、国内の需要を拡大させ、消費が伸びるようにしなければいけませんが、現在の日本はそのような状態にはなっていません。
 社会保障制度を中心に将来に対する不安が大きく、多くの人は消費を増やしません。また、現状を変えようという社会的な意思も弱くなっていますから、内需は縮小傾向のままです。

 実は来年以降、国内消費には多くの逆風が吹き始めます。2019年に消費税の10%増税が実施され、2020年にはサラリーマンの所得税が増税となります。またこの頃には東京オリンピックの特需も完全に消滅していることでしょう。ここで世界景気がピークアウトし、製造業の業績が頭打ちになると、国内消費をさらに冷やすことになります。

 日本は人口が減っていますから、何もしなければ、いずれ内需は減少していきます。かつてのように輸出で経済を拡大するというのも、もはや現実的ではありません。

 こうした状況を打開するためには、積極的にAI(人工知能)やロボットを活用して、生産性を引き上げ、得られた余力で新しい需要を創造していく必要があります。しかし、こうした変革を社会全体で進めていくためには、AIやロボットで代替できる仕事から、人でなければできない仕事へと労働者をシフトさせる必要があります。つまり雇用の流動化です。

 この部分に手を付けないと、本当の意味での継続的な成長を実現することは難しいでしょう。景気がよくなっている今のタイミングこそが、新しい時代に向けて決断する最後のチャンスかもしれません。

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