加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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シーメンスとアルストム、鉄道部門統合の目的は製造業のデジタル化

 

 独シーメンスと仏アルストムの鉄道部門が統合されることになりました。表面的には躍進が著しい中国の車両メーカーに対抗することが目的ですが、本当のシナリオはその先にあると考えられます。
 日本政府は鉄道インフラの海外輸出を国策として位置付けています。しかし、世界の鉄道インフラ市場はデジタル化の進展によって、日本側の予想を大きく超えて動いていることを認識する必要がありそうです。

中国企業への対抗策ではない
 独シーメンスと仏アルストムは2017年9月26日、両社の鉄道部門を統合すると発表しました。シーメンスの鉄道部門を切り出し、アルストムの本体と統合するというスキームで、シーメンスは新会社の株式の50%を保有します。シーメンスが部門を切り出す形ですが、実質的にはシーメンスによるアルストムの吸収というニュアンスが強いと考えてよいでしょう。

 世界の鉄道車両市場では、シーメンスがトップでアルストムがそれに続くという状況でしたが、中国の国有企業2社が統合し、新しく中国中社が発足。低コストを武器に新興国で受注攻勢を強め、トップ・シェアに躍り出ました。

 今回の統合は躍進が著しい中国メーカーへの対抗策と映ります。実際、そうした面があることは確かなのですが、おそらく統合の本当の狙いは異なると考えるべきでしょう。

 シーメンスは重電の分野では米GE(ゼネラル・エレクトリック)と並ぶトップ企業ですが、GEとシーメンスはデジタル化の分野でもかなり先を行っています。両社はIoT(モノのインターネット)関連技術や人工知能の開発に巨額の投資を行っており、製造業の構造転換を図ろうとしています。

 具体的には納入したあらゆる製品にセンサーを取付け、ネットに接続してリアルタイムでモニターすることで、機器のオペレーションやメンテナンスまで総合的に請け負うサービス企業に変わろうとしています。

 人工知能を使えば、どの機器がどのような状態で稼働しているのかリアルタイムで知ることができ、ある部品が10日以内に故障する可能性が高いといったことまで予想することまでも可能となります。そうなってくると製造業は単に製品を作って納入するというビジネスではなく、オペレーションやメンテナンスまでを総合的に請け負うサービス企業に変貌することになります。

 企業が持つ付加価値は製造ではなく、こうしたITサービスにシフトすることになりますから、ビジネス・モデルが根本的に変わってしまいます。極論するとハードを作ることには価値がなくなり、高度なITサービスをいかに提供できるのかが勝負となるでしょう。
 これは自動車のEV(電気自動車)化と自動運転化が進み、クルマの製造に関連した付加価値が半減。自動運転システムを含めた総合ITインフラに価値が出てくるという、自動車業界で発生しているパラダイムシフトと同じ構図です。

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政府は鉄道輸出を国策として掲げているが・・・
 ITインフラが競争の主な土俵ということになると、今のうちからできるだけ多くのデータを収集し、共通のITインフラを構築しておくことが重要です。アルストムとシーメンスの鉄道部門を統合させた真の理由はここにあると見てよいでしょう。

 そうなってくると中国企業に対する見方も大きく変わってきます。人工知能とIoTを中心としたITインフラの部分さえ握ってしまえば、極論すれば車両の製造はどの企業が担当しても大した違いではありません。欧州勢はこのような高い付加価値のある分野を押さえ、一方、中国企業は得意の低コストで車両を製造するという棲み分けが可能となるのです。

 ここで困った立ち位置に追いやられるのが日本メーカーでしょう。日本メーカーもデジタル化を進めようとしていますが、シーメンスやGEと比較するとあまりにも投資額が小さく、現時点では比較になりません。一方、巨大企業に成長した中国の車両メーカーと、コスト勝負するにはあまりにも企業規模が小さすぎます。

 本来でしたら、日本企業はシーメンスやGEに対抗、あるいは協業する形で製造業のデジタル化を進めていくべき立場でしたが、今となっては遅きに失した状況です。

 政府は鉄道インフラ輸出を国策として掲げていますが、製造業のパラダイムシフトという現実をあまり理解しているとは思えません。日本は高い生産技術を持っているので、政府が輸出支援をすれば業績は拡大し、経済成長に大きく貢献すると考えているようです。

 自動車産業も同じですが、製造業の世界は産業革命以来の大きな変革期を迎えています。従来のモノ作りの発想をすべて捨て去るくらいの覚悟がないとこの変革を乗り切ることは難しいでしょう。今回のシーメンスとアルストムの統合は、単なる中国企業の脅威といった話で終わらせないことが重要です。

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