追記:本記事は福田事務次官就任時の記事です。2018年4月18日、福田氏の辞任が明らかとなりましたが、同氏の辞任については、最新記事「財務省の福田事務次官が辞任。今後の人事はどうなる?」を参照してください。
財務省の幹部人事が発令されました。財務省は官庁の中の官庁と呼ばれており、その人事は、良い意味でも、悪い意味でも、霞ヶ関が置かれた状況を体現するものとなります。今回の人事をひもといてみましょう。
消費税シフトで人事が混乱していた
財務省は2017年7月5日、事務方のトップである事務次官に福田淳一主計局長が昇格する人事を発表しました。現在、次官を務めている佐藤慎一氏は退任し、福田氏の後任となる主計局長には岡本薫明官房長が就任しました。
財務省の主要人事は毎年、この時期に行われます。財務省にとってもっとも重要な仕事は予算編成です。予算編成は8月から本格化しますが、その前に布陣を整え、新しい体制で予算編成に臨むのが常です。
今回の人事で佐藤氏が退任し、福田氏が次官に就任することは、筆者も含め、大方の予想通りでした。というのも、ここ数年の財務省の人事はかなり乱れており、定常状態に戻すためには、佐藤氏が1年で退任する必要があったからです。
官僚組織は一般に政治からの人事介入を極端に嫌います(その是非は別にして)。このため、イレギュラーな人事はあまり好まれません。官僚組織の頂点に位置する財務省などでは、特にその傾向が顕著といえます。
そのような中、財務省の人事が乱れたのは、消費増税という財務省にとっての悲願を達成するため、司令塔となっていた勝栄二郎元次官(75年入省)が通常より長く次官に就任したからです。財務省の事務次官の任期は1年もしくは2年ということが多く、最近は1年で退任するケースが圧倒的に多くなっています。勝氏は3年目に入ってすぐに退任しましたから実質的には2年ですが、それでも最近の次官としては長期といってよいでしょう。
勝氏の後任には、真砂靖氏(78年)が就任しましたが1年で退任、その後、木下康司氏、香川俊介氏、田中一穂氏と79年入省の人物が連続して次官に就任しました。財務省では、同期入省の人物が連続して次官になることは滅多にありませんから、これはまさに異例の人事だったわけです。
このような変則的なパターンになったのは、勝氏が長期間、次官でありつづけたことを調整するための措置だと考えるのが自然でしょう。
80年入省で、主税局長だった佐藤氏は、本来であれば次官にならずに退任してもおかしくないポストです。しかも佐藤氏は、軽減税率の導入をめぐって、一時、官邸との関係がかなり悪化したとも言われています。
それにもかかわらず、佐藤氏を次官に就任させた背景には、順送りの通常人事に戻したいという省としての強い意向があったと考えられます。ここで佐藤氏が1年で退任し、82年入省の福田氏が次官に就任すれば、本来の人事パターンにさらに近づくわけです。
次の次官の最有力候補は主計局長の岡本氏だが・・・
財務省は消費増税を実現しようと画策してきましたが、結局、官邸からの強い意向には逆らえず、増税を断念しました。財務省としては、とりあえず人事をできるだけ早期に通常パターンに戻しておき、増税や財政再建については、仕切り直しをしたいというのがホンネでしょう。
こうした動きは、都議選の敗北など、安倍政権の基盤が少しガタついていることと決して無縁ではありません。官庁は本来、政治の決定に従って動く存在であり、その結果は政治家と国民が負うべきものといえます。しかし官僚組織は、自己増殖するものであり、政と官のバランスをどう取るのかは、民主国家における永遠の課題ともいえます。
安倍政権が今後、どう推移するのかは分かりませんが、場合によっては政局となる可能性も出てきている中、官邸との霞ヶ関の関係も再構築される可能性が高まっています。
今後の財務省の人事ですが、次の次官の最有力候補は、今回、主計局長に就任した岡本氏です。主計局長から次官への昇格は財務省人事の王道ですし、その前のポストは官房長でした。また秘書課長や主計局次長の経験もありますから、経歴的には文句なしです。
しかしながら、その次となると、かなり混迷しています。岡本氏は83年入省ですから、1年で次官を退任した場合、次の次官は84年から出ることになります。場合によっては岡本氏が2年間、次官を務める可能性もありますから、その場合には85年組からの次官就任となるかもしれません。
いずれにせよ財務省の人事は、永田町の政局と表裏一体の関係にあります。日本の財政や税制の動きがどうなるのかを知る有力な手がかりといえます。
ちなみに今回の人事では、理財局長の佐川宣寿氏が、国税庁長官に転じています。一部では、森友問題で忖度したことへの「ご褒美人事」など報道されていますが、おそらく現実はまったく逆です。
理財局長から国税庁長官というのは、よく見られる人事パターンであり、一般的な解釈では国税庁長官への転出は次官レースから外れたことを意味しています。いわゆる栄転人事ではありません。
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