経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. トピックス

トランプ大統領の登場をきっかけに、日本は消費型経済への移行を模索すべき

 米大統領選挙は、土壇場でトランプ氏が逆転勝利するという予想外の結果となりました。トランプ大統領の登場は、モノ作りと輸出を基軸としてきた日本経済にとって大きな転換点となる可能性があります。現実を冷静に受け止め、知恵のある対応が必要でしょう。

トランプ氏の大統領就任で、米国単体としては好景気に
 筆者は以前から、もしトランプ大統領が誕生した場合には、米国は意外に好景気となる可能性が高いと述べてきました。その理由はトランプ氏が掲げるインフラ投資の効果が大きいと考えられるからです。

 トランプ氏は、自著で1兆ドル(約102兆円)という巨額のインフラ投資を主張しており、8月にはクリントン氏が主張する金額の少なくとも2倍の金額を投じるとも発言しています。クリントン氏は総額で2750億ドルの投資を公約に掲げていましたから、その2倍以上ということになれば6000億ドル近くになります。

 米国のGDPはすでに18兆ドルもあり、インフラ投資が直接的にもたらす効果はGDPの0.7%程度にしかなりません(数年均等で投資を継続した場合)。しかし、インフラ投資は今後の成長のエンジンになるものであり、労働者の所得を拡大させる効果もあります。継続的にインフラ投資が行われれば消費にも好影響を与えるでしょう。

 また、これだけの規模の財政出動ということになると、国債の追加発行は避けて通れません。国債の増発は金利を上昇させますが、うまくいけば低金利の状態から脱却するよいきっかけとなり得ます。オバマ政権時代に、米国は財政再建を実現していますから、財政の悪化についてもそれほど心配する必要はありません。

 一方、トランプ氏が掲げる経済政策は日本にとっては逆風となる可能性があります。トランプ氏の大統領就任で最初に懸念されるのは、やはり自由貿易体制の動向でしょう。

 トランプ氏は当初、メキシコとの国境に壁を作ると宣言、NAFTA(北米自由貿易協定)やTPP(環太平洋パートナーシップ協定)について否定的な見解を示してきました。特にTPPについては就任と同時に撤退するとも発言しており、米国議会はトランプ氏当選を受けて年内のTPP承認を早速、断念しています。

 実際に大統領に就任すればトランプ氏も何らかの妥協を迫れる可能性は高いでしょう。しかしながら、まだ承認されていないTPPはすでに運用が行われているNAFTAに比べて撤退のリスクは最小限で済みます。トランプ氏が自らの公約実現をアピールする材料としてTPPは最良のターゲットですから、TPPからの全面撤退、あるいは大幅な見直しを打ち出してくる可能性は高いと考えられます。

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日本はこれをきっかけに消費型経済への移行を模索すべき
 日本はこれまで輸出大国を標榜し、何でも受け入れてくれる米国にモノを売ることで経済を成り立たせてきました。トヨタに代表される日本の製造業は、日本市場ではなく米国市場でビジネスをしており、日本人が稼げるかどうかは、すべて米国人の消費に依存していたわけです。

 しかし、トランプ氏が大統領に就任するということになると、この流れが大きく変わる可能性があります。もし米国が保護主義的なスタンスに傾いた場合、日本メーカーは米国での現地生産をさらに進める必要に迫られるでしょう。極論するとトヨタは米国の会社にならなければ生きていけなくなるのです。

 日本にとっては悪夢かもしれませんが、ものは考えようです。
 すでに製造業の世界では、大量生産、大量輸出の時代は過去のものとなり、ニーズに応じて地産地消するスタイルに変わってきています。トランプ氏の大統領就任は、こうした過去の経済構造を見直すよいきっかけとなるかもしれません。

 日本のGDP(国内総生産)に占める個人消費の割合は6割に達しており、米国ほどではないものの、すでに消費型経済へのシフトが進んでいます。しかし、消費の原資となる所得は、製造業の設備投資に由来する部分が大きいですから、水面下では輸出依存が続いているともいえます。

 米国に際限なく輸出できるという幻想が崩れつつある今、日本は消費型経済への移行を真剣に考えるべきでしょう。消費型経済をうまく運営するには、アイデアや情報など、形のないものにもしっかりと付加価値を付けるという新しい価値観が必要となります。

 私たちは身の回りの出来事にもっと関心を寄せていく必要があります。便利だと思うもの、価値があると思うものには、しっかりと値段を付け、これを提供した人には経済的に報いるという仕組みを構築することが大事でしょう。
 人口が減っているとはいえ、日本には1億人を超える巨大な消費市場があります。国内の市場メカニズムをしっかり機能させることができれば、トランプ時代をむやみに恐れる必要はありません。

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