経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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消費増税再延期のインパクト。日本の財政は未知の領域に入った

 安倍首相は、来年4月に予定していた消費税増税の再延期を決定しました。再延期を実施した場合、政府が掲げる財政再建目標の達成はほぼ不可能となります。日本の財政はとうとう未知の領域に突入したと考えてよいでしょう。

日本は事実上、財政再建目標を放棄した
 安倍氏は、伊勢志摩サミットにおいて、世界経済は今後リーマンショック級の危機に陥る可能性があり、各国は政策を総動員すべきだと主張しました。リーマンショック級の危機に対応するため、消費税増税を再延期し、大型の補正予算を組んで景気対策を行うというのが安倍氏が描くシナリオです。

 リーマンショック級の危機という認識は、これまでの政府の公式見解とは180度異なるものであり、サミットでの発言もかなり唐突なものでした。

 ただ、リーマンショック級の危機というキーワードはともかくとして、先進各国において、日本の景気が突出して悪い状況にあるのは事実です。日本の実質賃金は5年連続でマイナスとなっており、家計は危機的状況となっています。
 日本にはもはや消費税の再延期しか残された手がなくなっているのですが、現実には、消費税を再延期しても、大きな効果は期待できないでしょう。

 本来であれば、ここで日本の景気が低迷している本当の理由について、正面を見据えた議論が必要なところですが、そうした雰囲気はあまり感じられません。消費税の再延期と大型の補正予算はすでに所与のものとなっているようです。

 しかしながら、消費税の再延期は、日本の財政に確実に悪影響を与えることになります。これに大型の補正予算が加わることになると、日本政府が掲げる2020年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化するという財政再建目標は事実上、放棄する結果となるでしょう。
 つまり今回の消費増税の再延期によって、日本の財政はまさに未知の領域に突入した可能性があるわけです。

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どのような経路にせよ、最後は国民負担で帳尻を合わせるしかない
 もっとも、一連の措置によって、すぐに国債の価格が下落することはありません。日銀が損失覚悟で大量の国債を買い入れており、日銀の買いが続く限り、国債価格は下がらないからです。しかし、これは裏を返せば、日銀が量的緩和策の停止に追い込まれるような事態になった場合、日本国債には大きな売り圧力が生じることを意味しています。

 マスメディアやネットなどでは、日本国債が紙くずになるといった極端な話が出てくる一方、日本の財政は問題ないといった過度な楽観論も見られます。こうした両極端な意見が飛び出してくるというのも、不安心理が原因である可能性が高く、あまり健全な状況とはいえません。

 市場関係者で日本国債が紙くずになると考えている人はほとんどいません。しかし、もし国債の価格が下落して金利が数%に上昇した場合、政府の利払いだけで税収を上回ってしまい、日本政府は予算を組めなくなってしまいます。つまり市場から苛烈な歳出削減を強制されてしまうのです。

 こうした状況がもし現実のものとなった場合、日本経済に与えるマイナスの影響は極めて深刻なものとなります。国債が紙切れになっていないからといって、こうした事態を放置してよいわけがありません。
 財務省はこうした事態に備え、発行する国債の残存期間(デュレーション)を長期化していますが、この措置も、影響が及ぶスピードを緩和する効果しかないでしょう。

 現実には、予算が組めなくなるまで徐々に金利が上昇するのではなく、そうした傾向を市場が察知した段階で、円安という形で影響が顕在化してくるでしょう。もしそうなった場合には、激しいインフレによって実質債務を減らすことになると考えられます。

 結局のところ予算が組めず、苛烈な緊縮財政を実施するという形になるのか、インフレによる実質債務の減少という形になるのかの違いであり、いずれにせよ国民負担で帳尻を合わせることに変わりはありません。
 日本政府が保有しているという資産も、実質的には無価値のものが多く、こうした状況で債務を圧縮する効果はほとんどないでしょう。

 これまで、政府の財政再建目標の達成は「困難」ではあるものの「不可能ではない」という状況でした。しかし今後は、よほどのことがなければ基本的に「達成は不可能」になったと見てよいでしょう。
 したがって、金利の上昇についても「来るかもしれない」から「時間の問題」に変化したと考えざるを得ません。

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