加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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音楽聞き放題サービスの上陸は日本を変えるのか?

 

 スウェーデン生まれの音楽ストリーミング・サービスのSpotifyが間もなく日本に上陸します。日本の音楽市場は、世界から完全に隔絶された状態にありますが、こうした新しいサービスの登場で、この市場が変化するのか多くの関係者が注目しています。

欧米では音楽の聴き方が根本的に変わった
 Spotifyは全世界で2400万人の利用者がおり、ライブラリにはすでに2000万曲が登録されています。ストリーミング・サービスは、日本以外では急激な拡大を見せており、同社以外にもPANDORA、アップルが提供するiTunes Radioなどいくつかの会社があります。

 現在、同社のサイトに行くと、日本で間もなくサービスを開始しますというメッセージが表示されており、6月中にサービスが始まるという報道もあります。

 関係者がこのサービスに注目しているのは、ストリーミング・サービスの登場によって、欧米では音楽の楽しみ方が根本的に変わったからです。
 
 Spotifyには無料会員と有料会員の2種類があります。無料会員の場合には、数曲に1回の割合で広告が入る、音質が低い、ダウンロードができないといった制限がありますが、基本的に聞きたい曲をいつでも聴くことができます。さらに特徴的なのは、ラジオと呼ばれる機能です。

 これは好きな分野やアーティストを選択すると、それに関連した音楽が次々流れてくるというものです。選曲アルゴリズムはかなりの完成度で、利用者が好みそうな曲を極めて上手に選曲してきます。

 このようなサービスが出てくると、どのアーティストかは気にせず、とりあえず音楽を流しっぱなしにする利用者が増えてくることが予想されます。

 実際、欧米におけるspotifyの利用者は10代から20代の若者が多く、実際にそのような聴き方をしているといわれています。しかし、こうした聞き方が主流になってくると、従来の音楽コンテンツの販売やマーケティングの手法は大きく変化せざるを得なくなります。

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日本の音楽配信市場は極めて特殊
 同社は主要レーベルと個別の曲ごとの契約ではなく包括的な契約を結んでいるといわれます。こうした契約形態では、個別のアーティストに支払われる金額は極めて少額です。

 一部のメガヒットを飛ばすことができるアーティスト以外は、ますます楽曲だけでは十分な収入を得ることができなくなります。

 この影響は特に日本において大きいと考えられます。米国では、有料の音楽配信サービスが急速に普及したことでCDの売上げが激減しました。しかし一方で配信サービスは年々その規模を拡大させています。

 ところが日本はそれとはまったく逆の現象が起こっているのです。日本ではCDの売上げはゆっくりとした減少にとどまっていますが、配信サービスの市場規模は崩壊ともいうべき勢いで縮小しています。日本では何と8割がCDの販売です(米国は6割がダウンドーロです)。

 日本のCD価格は世界的に見て突出して高価ですが、AKB48に代表されるように特定のファンが大量に購入してくれるという特殊な市場環境です。音楽業界としては、このまま、いわゆるオタク・マーケットが維持された方が、安定したビジネスを続けることができます。

 世界展開するSpotify社が日本にだけ進出していなかったのは、市場の変化を嫌がる日本の音楽業界との交渉が長引いたからだともいわれています。

 同社の日本進出でガラパゴスが変わることを期待する声が上がる一方、欧米式の音楽文化は浸透しないと見る向きもあります。
 音楽市場は、経済全体から見ればごく小さな市場ですが、社会的を映す鏡です。同社のサービスが日本でも普及するのか、いろいろな意味で注目といえるでしょう。

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