加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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消費増税が本当に日本経済に悪影響を与えるなら、事態はかなり深刻

 

 2017年4月に予定されている消費税の10%への増税について、再度延期される可能性が高まっています。
 日本の個人消費は想像以上にダメージを受けており、この状態での消費増税は景気をさらに悪化させる可能性があるというのは事実でしょう。
 しかし、本来消費税の増税は、景気に対してそれほどのマイナスは与えないはずのものであり、もし増税が本当にマイナス要因になるという状況ならば、事態は深刻です。そうなってくると、問題は増税の是非だけでは済まなくなってくるかもしれません。

安倍首相が経済学の権威と次々と会談
 政府は国債金融経済分析会合を開催しており、安倍首相はジョセフ・スティグリッツ教授やポール・クルーグマン教授など、世界経済の「権威」と呼ばれる人たちと次々に会談を行っています。

 安倍首相が突然、海外の著名経済学者と会談している理由は、2017年4月に予定されている消費増税を再延期するための地ならしであるといわれています。スティグリッツ氏やクルーグマン氏は、安倍首相に対して消費税を増税しないよう提案しており、首相はこうした声を反映する形で最増税を延期し、選挙に備えるという算段です。

 日本における家計支出の絶対値はこのところ、一貫して減少が続いており、非常に危機的な状況です。この状態で消費税を増税した場合には、大きなインパクトになる可能性は高いでしょう。

 消費税の是非はともかくとして、本来であれば、消費税は、消費に対してそれほどの悪影響を与える存在ではありません。
 消費税の導入で国民の所得は減りますが、その分は政府支出に回っており、最終的には国民の所得として返ってくるからです。短期的には消費が減少しても、少し時間が経てば、そのマイナスは解消される可能性が高いのです。

 しかし、現状の日本経済はそうはなっていません。このところ日本の家計におけるエンゲル係数が急上昇しているのですが、その直接的な理由は2014年4月に実施された8%への消費増税です。
 消費増税をきっかけに名目上の値上げに踏み切った事業者が多く、これが食料品価格を一気に押し上げました。消費税が上がっても、収入が増えたわけではないので、消費者は他の品目を切り詰めることになり、結果として、エンゲル係数が上昇したのです。

 しかし1997年4月に実施された消費税の5%への増税時には、エンゲル係数の目立った上昇は見られませんでした。

 当時はまだ家計に余裕があり、贅沢品への支出も多く、消費増税に対しては、各品目についてまんべんなく消費を減らすことで対応したからです。つまり、消費増税によって家計の支出に大きな影響が出てしまうというのは、日本の家計が相当厳しい状況に追い込まれている可能性を示唆しているとみてよいでしょう。

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消費税が本当に悪影響を与えるなら、もっと本質的な議論が必要
 同じような現象は消費増税前の駆け込み需要からも分かります。2014年4月の消費増税時には、生活必需品も含め多くの商品で駆け込み需要が見られました。こうした行動は経済合理性がなく、諸外国ではあまり観察されないものです。

 生活必需品は一生買い続けるものですから、消費増税前に少しばかり生活必需品を買いだめしたところで、長期的に見ればその効果はゼロになってしまうでしょう。それでも増税前に買いだめする人がお店に殺到したということは、とにかく目の前の1円でも節約したいという切実な状況が背景にあると考えられます。

 消費増税をめぐっては、その是非について様々な意見があります。本来、中長期的には景気にそれほどの影響を与えないはずの消費増税によって、日本経済が本当に沈んでしまうのだとしたら、増税の是非以前に、そうした状況そのものが大問題なはずです。消費税の先送りで景気失速が回避できるという類いのものではないでしょう。

 その意味では、増税再延期に賛成している人も、日本経済の現状について、少し楽観的過ぎるのかもしれません。

 消費増税の是非に関する議論も大事ですが、日本の消費がなぜここまで弱っているのか、もっと腰を据えた議論が必要です。消費増税の是非は、その処方箋とセットで議論することが重要でしょう。とりあえず増税を延期すれば、何とかなるという判断はしない方がよさそうです。

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