加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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欧州がマイナス金利を導入した意味

 

 欧州中央銀行(ECB)がとうとうマイナス金利政策の導入に踏み切りました。欧州が懸念しているのは、経済の「日本化」といわれています。
 もし欧州が日本化してしまうと、これからの世界経済にも大きなマイナス要因となってしまう可能性があります。

主要国では初めてのマイナス金利
 ECBは2014年6月5日、定例理事会を開催し、政策金利はこれまでの0.25%から0.1%引き下げ、過去最低の0.15%としました。

 これに合わせて、民間銀行から資金を預かる際の金利も引き下げたのですが、この金利はいままでゼロに設定されていましたから、今回の引き下げでとうとうマイナス0.1%の金利になったわけです。

 マイナスの金利ということは、銀行が中央銀行にお金を預けると利子が付くどころか、逆に利子を取られてしまうということを意味しています。
 各銀行は、資金を貸し出しに回さないと余分なコストがかかってしまうため、融資の拡大が期待されるという仕組みです。マイナス金利の導入は、主要国では初めての試みとなります。

 ECBがマイナス金利の導入に踏み切ったのは、欧州経済の低インフレ傾向がより鮮明になっているからです。

 ユーロ圏の5月の消費者物価指数はプラス0.5%でした。昨年は1%台後半であったことを考えると、かなりの落ち込みといってよいでしょう。
 欧州では経済が日本化してしまうことを懸念する声が上がっており、ECBとしてはこれを何とかして防ぎたいと考えています。

 経済の日本化とはどのようなことでしょうか?

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欧州も日本も不況は構造的要因
 それは、経済危機の状態を脱することができても、デフレの状態が長く続き、景気低迷が長期化する状態のことを指しています。

 日本はバブル崩壊後、一時は金融危機にもなりかけましたが、何とかそれを回避しました。しかし、その後はダラダラとデフレが続き、回復のきっかけをつかめずに、20年が経過してしまったのです。

 欧州はリーマンショック後、スペインやギリシャの財政問題が表面化し、一時はパニック寸前となりました。最悪な状態は脱したものの、順調に経済が回復するという状態にはなっていません。

 EU全体の失業率は10.5%とピークより若干下がったものの、過去最高水準が続いています。財政危機となったスペインではいまだに25%と極めて高い失業率となっており、フランスも10.4%と高水準です。
 一方ドイツやオーストリアなどは5%前後の極めて低い失業率であり、格差はまったく解消されていないのが実情です。

 欧州が本当にデフレに苦しんだ日本と同じ状態になっているのだとすると、金利をマイナスにしたところで、経済が回復するのかは疑問です。日本が長期にわたって低迷が続いたのは、景気循環の問題ではなく、構造的な要因が大きいからです。

欧州もいずれは量的緩和に移行する
 日本企業は1990年代以降、劇的に進んだグローバル化やIT化の流れにうまく乗ることができませんでした。ホワイトカラーの生産性は低く、効率の悪いオペレーションが続いています。欧州もこれと似たような状況です。

 グローバル化をいち早く達成したドイルの企業は高い競争力がありますが、フランスやイタリア、スペインといった国の企業は、非効率な経営状態が続いています。
 金利をマイナスにしたところで、こうした企業の改革が行われないと効率よくお金が回ることはありません。

 このような状態でも金融的な面で何とか効果を上げようと思った場合には、やはり国債などの資産を中央銀行が購入する量的緩和策が必要となります。
 量的緩和策も直接的に景気を回復させる方策ではありませんが、強制的にインフレを発生させるという意味で、金利をいじる従来型の金融政策よりは効果があります。

 ECBは、ABS(資産担保証券)の購入を行う可能性について言及しています。近い将来、ECBも日本と同様の量的緩和策に踏み切らざるをえなくなる可能性が高くなってきたといえるでしょう。

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