経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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東芝の不正会計で浮き彫りになった、日本のカイシャが抱える本質的な問題

 不正会計問題によって決算の発表をたびたび延期していた東芝が、とうとう2015年3月期決算を発表しました。会社側は、社会取締役の増員などを柱とする新しいガバナンス体制を構築し、再発防止に努めるとしていますが、根本的な問題は解決されていません。
 今回の一連の不祥事は、日本の株式市場に対して、目に見えない形で悪影響を与え続ける可能性が高いでしょう。

東芝の再発防止策は機能しない可能性が高い
 東芝の2015年3月期における最終的な売上高は前期比2.6%増の6兆6558億円、最終損益は378億円の赤字となりました。前期の当期利益は600億円でしたから、約1000億円のマイナスです。不正会計が明るみに出る前の利益予想は1200億円の黒字でしたから、ここを基準にすると約1600億円のマイナスということになります。

 東京証券取引所は9月中に東芝を「特設注意市場銘柄」に指定する見通しです。これは、株式の上場を維持しながら、内部管理体制の改善を促すというもので、対象銘柄に指定された企業は、定期的に東証に対して改善報告書を提出する必要があるものの、取引自体は継続されます。

 同社は今後の対策として、社外取締役の増員などを柱とする新ガバナンス体制を構築するとしています。しかし、今回、発表された新しいガバナンス体制も、基本的には機能しない可能性が高いと考えた方がよいでしょう。ここには、ガバナンスに対する日本社会全体の認識の問題が大きく関係しているからです。

 同社は、今後、執行側の監督機能を強化するため、取締役会の役割を「再定義」すると説明しています。再定義された取締役会の役割というのは「執行に対する監視・監督」「会社の基本戦略の決定」とされています。これは、ごく当たり前の取締役会の役割なのですが、これをわざわざ再定義したということは、従来の取締役会はこの認識が不十分であったという解釈になります。

 東芝は形式的には先進的な欧米型ガバナンスを導入してきた企業です。しかも、取締役会のメンバーの中には、高名な経営学者の名前も見られます。従来の取締役メンバーは、誰一人として取締役会の役割を知らなかったのでしょうか。そんなことはないはずです。つまり分かっていても、その役割を果たしていなかったというのが現実でしょう。

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日本のカイシャはダブルスタンダード
 東芝をはじめとする日本の大手企業のほとんどは株式会社の形態を採用しているのですが、その実態は株式会社とはほど遠いものです。所有、経営、執行を分離し、所有者(株主)は経営を監視し、経営は執行を監視するという株式会社のシステムはほとんど機能していません。

 その理由は、制度で規定されている仕組みを実現しようという意識が、そもそも希薄だからです。これは東芝社内の問題にとどまるものではなく、社会全体としても同じことです。
 このことは東芝問題を批判するマスメディアの記事を見ても分かります。記事の中には「なぜ社員がトップに諌言できなかったのか」といった主張がごく普通に見られるからです。

 執行役から業務命令を受ける立場の社員が、指示を出す人間に逆に指図することはできません。執行役の暴走を食い止めるのは経営の役割であり、経営が暴走しているのであれば、それを止めるのは株主しかないというのがガバナンスの原理原則です。

 取締役は株主の意向を代弁するわけですから、不正があれば、自身のすべてを賭けてこれを防ぐ義務があります。また不正を行った執行役や、不正を止められなかった取締役は、その責任を問われなければなりません。これが株式会社のルールです。

 経営者のモラルや諌言する社員の存在に期待するといった考え方では、モラルのない経営者や諌言しない社員が出てきた時点ですべて崩壊してしまいます。ブレーキをかける制度として、そもそも成立しないものなのです。

 しかし、東芝をはじめとする日本のカイシャの多くが、こうした価値観を共有していません。つまり、日本におけるカイシャというのは、本来の株式会社の概念とはまったく異なったパラダイムで運営されており、日本社会もそれが当然だと認識しているということになります。

 日本流というまったく異なるパラダイムでカイシャを運営するのであれば、そうであることを内外に説明すればよいのですが、日本企業の多くは、なぜかグローバルスタンダードに沿って経営していると標榜しています。
 現実はそうではないにもかかわらず、対外的には欧米基準のルールが適用されているかのような説明をしますから、話はさらにやっかいになります。

 こうしたカイシャのあり方に対するダブルスタンダードは、日本市場の信頼性そのものに、重大な影響を与えかねません。この影響は直接目に見えないだけに、問題はより深刻といってよいでしょう。

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