加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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NSAの情報収集を制限する米国自由法が成立。安全保障と個人の自由の関係はどうなる?

 

 米上院は2015年6月2日、NSA(国家安全保障局)による個人情報の収集を認める代わりに、活動に一定の制限を設ける「米国自由法」を可決しました。下院ではすでに可決しており、オバマ大統領が法案に署名したことで、正式に法律として成立しました。

民主国家米国としての見識
 2001年9月に発生した同時多発テロ以降、米国の諜報機関は、電話やメールの盗聴など、広範囲な個人情報の大量収集を行ってきました。その根拠になっていたのが、テロ対策のために一部の人権を制限することができるとする愛国者法です。
 ところが、CIA元職員のエドワード・スノーデン氏が、NSA(国家安全保障局)による情報収集の実態を暴露してしまったことから、政府に対する批判が高まっていました。

 当初は、テロ対策のためにはやむを得ないというスタンスだった人たちも、当局による無制限な情報収集に警戒感を示すようになり、愛国者法の見直しが議論されるようになってきました。
 オバマ大統領はこうした状況を受け、愛国者法の改革案を提示していたのですが、今回、成立した自由法はこの改革案がベースになっています。

 米国自由法では、複数の通信回線を使う容疑者の通信傍受や、過激派組織に属さない容疑者の監視については引き続きNSAが実施できるとしています。
 一方で、一般市民の情報を広範囲に収集することは禁止となり、実施する場合には裁判所の令状が必要となりました。また通信データの保管もできなくなっており、必要なデータは、通信会社に提供を依頼しなければなりません。

 米国は世界最大の軍事大国ですが、世界における民主主義のリーダーでもあります。安全保障と個人の自由という難しい問題に対して、米国なりに出した回答が今回の自由法ということになるでしょう。

 諜報機関による情報収集は単に個人のプライバシー問題にとどまるものではありません。諜報機関が自由に個人の情報を取得できてしまうと、それを利用して政治に干渉するという、より大きな問題を引き起こす可能性があります。

nsa

近い将来、今度はドローンが社会問題になる
 実際、米国はこれに対する苦い記憶があります。FBI(連邦捜査局)の捜査能力を悪用し、政治家や著名人のスキャンダルを探って、自らの立場の維持や予算確保を行ってきたフーバー長官のケースです。フーバー長官は大統領さえも脅迫していたといわれており、結局、死ぬまでFBIの長官に居座り続けました。

 一般市民のプライバシー保護も大事なことですが、行き過ぎた監視は、民主主義が機能しなくなるというもっと重大な問題も抱えているわけです。

 今回、自由法が可決したことで、テロ対策のレベルが下がるのではないかと懸念する声も出ているようですが、おそらくその心配はないでしょう。いわゆるビックデータを駆使した情報収集・分析能力は、めざましい進歩を遂げており、わたしたちが想像する以上に解析能力が上がっているからです。

 仮に電子メールの内容や電話の内容が分からなくても、人工知能を使って受発信の状況をマクロ的に分析するだけで、人海戦術を使った従来の諜報活動の何十倍もの成果を得られるはずです。

 一部の識者は、今回の法律はNSAを弱体化させるものではなく、実施できる範囲が明確になったことで、逆にNSAの情報収集活動を活発化させるのではないかと懸念しています。近年の情報技術の進歩を考えると、こうした識者の懸念はあながちウソではないかもしれません。そのくらい、ITを使った情報収集能力は卓越しています。

 近い将来、ドローン(無人機)を使った監視についても、大きな社会問題になることはほぼ間違いありません。ドローンの本質はやはりITとの融合にあります。大量のドローンをネットワークで結び、一定のエリアに飛行させれば、そのエリアにターゲットが存在していた場合、やはり一定の確率で見つけ出すことができるようになります。

 これまでのようにカンに頼り、捜査官が点で情報収集するのではなく、面で情報収集を行い、確率的に処理できるところが決定的な違いです。これにスマホなどから得られる情報を加えることで、仮に名前が伏せられていても、かなりの部分まで国民を丸裸にすることが可能となるでしょう。

 今後もプライバシーの確保と、テロ対策、そして技術革新の中でどう折り合いを付けるのか、難しい議論が続きそうです。

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