経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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政府の財政再建計画が景気依存型に?

 日本の財政健全化計画が、景気回復依存型になりそうです。政府は6月までに財政健全化計画を策定する予定なのでが、景気回復による税収増を赤字縮小の主な原資とする案が有力となっています。

高い経済成長を前提にしても9.4兆円の赤字が発生
 日本政府は、2020年度までに基礎的財政収支を黒字化するという国際公約を掲げています。内閣府では、日本の長期的な財政状況の試算を行っているのですが、それによると、2020年度の基礎的財政収支は、アベノミクスがうまく機能したケースでも、約9.4兆円の赤字となっています。
 この試算が正しいのだとすると、9.4兆円の赤字を段階的に縮小していかなければ、黒字化の目標は達成できないことになります。

 赤字を縮小するための方法には大きく分けて3つあります。ひとつは歳出を削減すること、もうひとつは増税で税収を増やすこと、もう一つは経済成長によって税収を増やすことです。

 現在、政府内部では財政健全化計画の内容が議論されているのですが、2015年5月12日に開催された経済財政諮問会議では、計画の土台となる論点整理が提示されました。

 この論点整理では、名目3%、実質2%程度の経済成長を前提にするという内容が盛り込まれ、経済成長による税収増で財政を健全化させる方向性がより明確になっています。

 この名目3%、実質2%という数字は、先ほどの試算においてアベノミクスがうまくいったケースに相当します。この前提条件においても9.4兆円の赤字なわけですから、経済成長によって、税収を増やしていくためには、さらに高い成長が必要ということになります。これは現実的に考えると、かなり厳しい条件といってよいでしょう。

 一方で今回の健全化計画には消費税の10%以上の増税は盛り込まないことになりました。増税がないということになると、極めて高い成長を実現するのか、歳出を大幅にカットするのかの二者択一ということになります。

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試算は条件が厳し過ぎるという指摘も
 当然のことながら、財政を担当する財務省は、歳出削減で赤字縮小を実現すべきという立場です。麻生財務相は「不確実性が大きい」として、税収増を前提とする動きにクギを刺しています。

 しかし、歳出削減で赤字を縮小するということになると、金額が突出して大きい社会保障費を削減する以外に方法はありません。高齢者の年金や医療を抑制するという方策は、政治的には決断できない可能性が高いでしょう。結果として、税収増に頼ることもやむなしという状況に傾きつつわけです。

 もっとも、税収増もまったく期待できないわけではありません。

 2020年の赤字が9.4兆円という内閣府の試算については、かねてから条件が厳し過ぎるという指摘があります。甘利経財相は「税収弾性値の変化もあるのではないか」と述べています。
 税収弾性値とは、GDPの成長に対して税収がどれだけ増加するかを示した指標なのですが、財政当局はこの数値を常に低めに見積もっています。甘利氏は、もっと税収は多くなるのでは?と指摘しているわけです。

 ただ、仮に税収弾性値がもう少し大きな値だったとしても、9.4兆円の赤字を埋める水準までの税収増は期待できません。最終的には、どれだけ歳出を減らせるのかがカギとなりますが、どこまで計画に盛り込むのか、政府内部での調整が続いている状況です。

 最終的には明言を避け、曖昧な表現にとどめる可能性もありますが、対外的には良い印象をもたらさないでしょう。

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