賃金を上げれば景気が良くなるのか?

 このところ多くの人の生活が苦しくなってきています。量的緩和策によって円安が進み、輸入物価が上昇しているにもかかわらず、家計収入が増えていないからです。
 安倍政権では企業に対して賃上げを求めており、企業側もある程度は応じる姿勢を見せています。しかし、今年の春闘でも一気に生活が楽になる賃上げは期待できないでしょう。

今は囚人のジレンマに近い状態
 世の中では、景気がよくならない理由のひとつとして、多くの識者が、賃上げに対する企業の消極的な姿勢を挙げています。確かに強制的であったとしても、企業が思い切った賃上げを行えば、家計の可処分所得が増え、個人消費が増加する可能性があります。景気をよくする一つの選択肢であることは間違いありません。

 しかし、多くの人がそれを認識していながら、なかなかそうならないことには理由があります。多くの企業が、今の市場環境では、今後業績が大きく改善し、従業員の給与を継続的に増やしていけるとは考えていないのです。

 日本の企業は、米国などと異なり、株主利益のために行動しているわけではありません。極論すると日本の企業は、従業員の雇用のために存在しています。つまり、給与を上げないのは、給与を上げてしまうと、業績が悪くなり、結果として自分達の雇用が確保されなくなると皆が考えているからです。

 これは一種の囚人のジレンマに近い状態といってよいでしょう。囚人のジレンマとは、お互いに協力する方がよい結果になると分かっていながら、自分だけが損するのではないかと考え、結局、皆が相互に裏切ってしまうということを指します。
 皆で賃上げすれば経済がよくなるのに、自分だけが賃上げして、他社が賃上げをしなければ、結局、自分の会社だけが倒れるのではないか?そう考えて、誰も動き出さないわけです。

 このような状況を改善するため、皆で賃上げをする雰囲気を作ることが大事だとの主張があります。しかし、現実には、こうしたやり方はあまりうまくいきません。必ず誰かが抜け駆けしてしまうからです。

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新しい需要を創造しなければ根本解決にはならない
 冒頭にも述べたように、たとえ強制的であったとしても、皆が一斉に賃上げすれば、景気に対して一定の効果が得られる可能性があります。しかし、これは本当の意味での解決策にはなっていません。

 真の解決策は、新しい需要の創造です。誰かが思い切って新しい事業を行い、そこにあらたな需要が発生することで皆がお金を使うようになり、労働市場が動き出して賃金が増加するというプロセスの実現です。そして政府が行うべき経済政策は、そのような環境を民間が自発的に構築できるよう、周辺の環境を整備することでしょう。

 これは皆が疑心暗鬼になるという状況ではありませんから、ひとたびよいサイクルが回り始めれば、大きな効果を発揮します。高齢化と人口減少が進み、社会が制度疲労を起こしている日本ではなおさらといえるでしょう。
 これはニワトリとタマゴのような関係なのですが、本来は、新しい需要が生まれるというところが起点(タマゴ)であり、そこから物事がスタートするのが理想的なのです。

 残念ながら今の日本はそのような状態になっていないません。というよりも、このようなことからあえて目をそらしているようにも見えます。

 新しい事にチャレンジすることは、当然ですがリスクを伴います。しかしリスクに見合ったリターンが確保できるのであれば、必ず誰かが新しいことにチャレンジしてくるはずです。

 そして、リスクに見合ったリータンを提供するのは、政府でもなければ、投資家でもありません。新しいアイデアや製品について「これは面白い」「前例はないが使ってみよう」という、多くの人の前向きな発想です。どんな画期的な製品やサービスも「これを使ってみよう」という顧客が現われなければ、開花することはないのです。

 もし囚人のジレンマを脱出し、皆で全体の利益を考えようということであれば、むしろこうした部分の発想を変えていくことが重要です。多少回り道をするように見えますが、結局のところ、これが最短距離なのです。