経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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残業代ゼロ制度でどうなる?

 労働時間に関わらず賃金を一定にする、いわゆる残業代ゼロ制度に関する議論が本格化してきました。各方面から様々な意見が出ていますので、最終的にどのような内容になるのかは分かりませんが、何らかの形で導入される可能性は高まってきましたといってよいでしょう。

一度は導入を断念したが・・・
 この制度は、昨年夏に産業競争力会議で検討されたましたが、労働組合などから激しい反発があり、一旦は導入が見送られました。
 しかし、この制度に対しては、財界からの強い要望があり、今年に入って、再び産業競争力会議で議論が復活しています。

 この制度の最大のポイントは、どの社員を残業代ゼロの対象とするのかという部分です。

 当初、産業競争力会議の議論では、年収1000万円以上の社員に加えて、労使で合意すれば一般社員もその対象にするという案が提示されていました。しかし、この案がそのまま通ってしまうと、下手をするとすべての社員がその対象になってしまう可能性があります。

 あまり知られていませんが、今でも、法律上は企業は社員に一定時間以上の残業を強いることはできません。しかし「労使が合意すればその限りではない」という条文があり、それを根拠に企業は長時間の残業を社員に指示しているにすぎません。

 しかし、会社とそのような合意文書を交わした記憶のある人はほとんどいないでしょう。労働組合がある企業の場合は、組合が会社と合意していますし、ない企業の場合には、形式上、社員を代表する人が会社と合意契約をしていることになっています。

 つまりこの合意は完全に形式的なものであり、おそらく残業代ゼロもおなじような形になる可能性が高いわけです。

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どの程度まで対象社員の範囲は広がるか?
 この案に対しては、労働組合が強く反発していますし、厚生労働省も慎重なスタンスです。

 ただ、安倍政権は、残業代ゼロ制度の導入に非常に前向きで、6月にまとめる成長戦略にこの制度を盛り込みたい意向です。厚生労働省はこうした動きを受けて方針を転換し、条件付きで導入を容認する方向で動き始めました。

 厚労省では、制度の導入を認める代わりに、残業代ゼロの対象となる社員は、為替ディーラーなど「世界レベルの高度専門職」に限定すべきとしています。また財界側も、世論の反発に考慮して、全社員ではなく、一部の高度人材に限定するという修正案を提示しています。

 財界の意向を受けたプランでは、新商品開発リーダー、ファンドマネジャー、ITコンサルタント、経済分析アナリストなどがその対象になるとしています。

 確かに年収の高い高度人材ではありますが、厚労省のプランよりは対象の幅が広く、場合によっては、かなりの数の社員がこの対象になる可能性があります。

 もっとも、これまでサービス残業が横行していた会社では、この制度があろうがなかろうが、実態は変わらないという話もあります。

 もしこの制度が導入された場合、やはり、対象となる範囲が徐々に拡大されていく可能性が高いでしょう。ある程度の立場を目指す人手であれば、この制度を受け入れる以外選択肢はなさそうです。

 そして残業代ゼロの対象となる社員と、完全に時間で働く社員と、二極分化が進んでいくことになるでしょう。

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