経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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コーポレートガバナンスの意味を分かりやすく解説すると

 近年、コーポレートガバナンスという言葉を耳にするケースが増えています。直訳すると「企業統治」ということなのですが、このキーワードをただ聞かされてもピンとこない人が多いと思います。この言葉にはどのような意味があるのでしょうか。

ガバナンスをうまく機能させるには株式会社の制度を理解する必要がある
 コーポレートガバナンスとは、企業を公正に経営し、企業価値を最大化するための一連の取り組みのことを指します。具体的には様々な施策があるのですが、もっとも重要なのは、会社の経営が特定の人物の意向だけで決められることがないよう、株主の立場から監督するための仕組み作りです。

 ガバナンス強化を目的として、今年の5月には改正会社法が施行され、6月からは東証の上場ルールに新しい指針が適用される予定です。これらの中で、重要な役割を占めているのが社外役員の設置です。

 なぜ社外役員が大事なのかを理解するためには、株式会社の仕組みをしっかりと把握しておく必要があります。

 株式会社はもともと、企業の所有と経営を明確に分離するために作られた会社の制度です。会社にはいろいろな経営のやり方があり、それに合わせた組織形態を選択できます。
 このうち株式会社は、企業の所有者は直接経営にタッチせず、金銭的な責任だけを負い、経営そのものは所有者から任された人が行うというスタイルを想定したものです。

 株式会社では、会社の所有権を証明する株券を自由に売買し、それを購入すれば誰でも会社を所有できるという特徴があります。
 よく株式会社を外部から買収することについて批判をする人がいますが、これはナンセンスなことです。外部の人が自由に会社を売買できるように、わざわざ作った制度が株式会社なのですから、それが嫌であれば、別な形態を選択すればよいだけなのです。

 ここで重要なことは、株主は会社の持ち主でしかなく、実際の経営は株主から委託された経営者が行うという点です。
 経営者は、役員報酬を受け取る代わりに、株主の意向に沿って、従業員を雇い、経営を行って利益を上げ、配当や株価の上昇という形で株主に利益を還元します。経営者は、それができる人物と株主からみなされたからこそ、多額の報酬を受け取って、取締役に就任できるわけです。

gabanansu

社外役員はむしろ会社に精通していない方がよい
 しかし経営者と株主の利害は一致しないことも少なくありません。経営者は株式を持っていませんから、株価が下がろうが、配当がなくなろうが、自分の懐は痛みません。ひどい人になると、会社の経費で飲み食いし、多額の役員報酬をもらうことばかり考えるようになります。

 それを防ぐための仕組みがコーポレートガバナンスです。

 日本の会社は取締役のほとんどが会社の従業員からの昇格です。本来、取締役会は全員が平等であり、社長が暴走しないよう、ブレーキをかける役割を果たしています。
 しかし、日本の場合は、多くが、会社の中の上司部下の関係を引きずったまま取締役に就任していますから、上司である社長の経営方針にノーを言えるわけがありません。

 諸外国でもこうした事態が発生し、株主の利益が損なわれるという事態が起こったことから、取締役会の中には外部の人間を多数参加させ、株主の意向が十分に反映されるようにすべきという流れになってきました。これが社外役員の役割ということになります。

 社外役員については、会社の事をよく知らないのに使い物になるのか、という話がありますが、これは正反対です。経営の暴走に対するブレーキ役ですから、むしろ会社の内部事情をよく知らないことが重要なのです。

 したがって、社外役員としては、会社経営そのもには精通しているものの、その会社の内部事情はよく知らず、利害関係もないという人が最適です。そうであればこそ、経営に関して客観的な意見を述べることが可能となります。

 もっとも現実問題として、日本にそのような人物がいるのかという疑問も湧いてきます。結果的に弁護士や官僚OBの天下り先になるという意見もあるようです。

 しかし、法制化も行われ、東証ルールにも適用されましたから、もはや後戻りはできません。社外役員の制度をうまく活用できるかどうかは、日本の株式市場が今後も健全に発展できるのかの試金石です。
 この制度をうまく機能させられないようであれば、日本企業のレベルもそれまでということになるでしょう。まさに日本人の底力が試されているのです。

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