経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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ダウンロードは儲からないのか?

 ミュージシャンであるスガシカオ氏の「ダウンロードではなくCDを買って欲しい」というツイッター発言をきっかけに、ネット時代における音楽業界のビジネスモデルがあらためて議論になっているようです。

CD販売価格のうち半分はモノや流通の費用
 スガ氏は、以前はオーガスタという事務所に所属していましたが、その後、事務所を独立、メジャーレーベルとは契約せずに音楽活動をしていましたが、今回、再びメジャーと契約し、新しいシングル「アストライド」を発表しました。

 「CDを買って欲しい」という発言は、このシングル発売に関して出てきた発言です。スガ氏によれば、「ダウンロードも嬉しいけどCDを買って欲しい」「ぶっちゃけ、ダウンロードでは制作費を確保することができず、次の作品のメドが立たない」と発言しました。

 これに対して、ネット上では、スガ氏の発言を支持する意見が出る一方、「時代の流れを理解していない」「AKBのように握手会をするなど、稼ぐ手段を考えなければ淘汰されるだけ」といった厳しい意見も出ています。

 書籍などもそうなのですが、こうしたコンテンツ商品は、物理的なパッケージとして販売することで、単価を高くしているという側面があります。

 CDの販売価格のうち、半分程度はプレス代やパッケージ代、流通マージンなどで占められています。アーティスト取り分は意外と少なく、全体の2%程度しかありません。
 スガ氏の場合には、作詞作曲をしていますから、数%の印税がプラスされることになりますが、それでも全体の10%未満です。

 スガ氏の発言は、自分の取り分が少ないということよりも、レーベル側が十分な利益を得ることができないので、次の作品のメドが立ちにくいということを気にしているようです。

 スガ氏はその後、あくまでファンからの質問に答えたのであって、業界全体の体質の事を指摘したわけではないと説明しています。ただ、ダウンロードだけでは利益が出ないという話は大筋では間違っていません。

sugasikao

直接会うことに付加価値を付けるしかない?
 CDの販売価格のうち、15%から20%程度は音源制作費用に回せるといわれています。もしスガさんのシングルCDが1万枚売れれば、240万円は制作費に回せることになります。

 もしこれが200万円程度で収まっていれば、レーベルは余ったお金を次の作品に回すことができますから、次作リリースのメドが立ちやすくなります。

 これはサラリーマンの人にはなかなか分かりずらいかもしれませんが、自身の作品を生活の糧にしている人にとっては、その作品がいくら儲かるかよりも、次の作品を出すメドが立つことの方がずっと重要なのです。

 しかし、これだダウンロードだとそう簡単にはいきません。ダウンロードは1曲250円程度ですが、シングルに入っている2~3曲を、リスナーがすべて買ってくれるとは限りません。

 ダウンロードにはパッケージングなどの費用はかかりませんが、平均1.5曲程度ということになってしまうと、全体の単価が大幅に下がってしまいます。

 最終的にはCDよりも利益は大幅に減少してしまうというのが現実でしょう。AKB48がその代表例ですが、今の音楽業界はCDやダウンロードで稼ぐことを想定していません。業界大手のエイベックスも、すでにレーベルというよりは、マネジメント会社やイベント会社としての売上が大半を占めている状況です。

 スガ氏が取り組む音楽は、スタジオに楽器を持ち込み、時間をかけて作り込む必要があります。打ち込みを使って低予算で音源を作れるアーティストに比べると、制作費用はかなり高いと考えられます。

 しかし、そうだからといって、多くのリスナーがそのあたりの事情を汲み取ってCDを買ってくれるという流れにはならなさそうです。やはりデジタル時代には、直接会うという形態に(ライブやファンの集い)に付加価値を見出し、そのあたりで稼いでいくしか方法はないのかもしれません。

 (追記)打ち込みを使った低コストな楽曲制作は楽器メーカーの経営も直撃しており、ロック・ギターの老舗で、レスポールという形式のギターを製造している米ギブソン・ブランズは2018年5月に経営破綻しました。ギブソン破綻については「ロックギターの老舗、ギブソンの経営破綻が意味すること」を参考にしてください。

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