加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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ロボット犬をめぐる真実

 

 米国のベンチャー企業が開発したロボット犬の動画が話題になっています。社員がロボット犬を蹴り上げても、すぐに体制を立て直す様子が映されており、ロボット犬の優秀さを示しているのですが、これに対して「可哀想」「残酷」といった声が寄せられているそうです。

蹴られても健気に立ち上がるロボット犬
 このロボット犬は「Spot」という名前で、重量は73キロ。四足で自律的に動き、狭い場所や急坂なども移動できます。動きはまさに犬そのもので、確かに動きだけを見ていると、ホンモノの犬に思えてきます。

 動画では、スタッフがSpotを蹴り上げますが、Spotは健気にも、転ばないよう体制を立て直します。Spotを開発した会社としては、どんな状況でも体制を立て直せることをアピールしたかったので、まさに狙い通りなのですが、確かに、スタッフが犬を虐待しているようにも見えます。

 実際、この動画に対しては、残酷だといった発言が相次いでいるようです。ロボットなのだから気にする必要はないという反対意見も出ているようですが、それだけ、Spotの動きが精巧だということなのでしょう。
 
 実際のところ、筆者もこの動画を見た時には、Spotの動きがあまりにもリアルで、少し可哀想な気がしました。しかし、このロボットがどのような事情で作られているのかということを考えると、何とも複雑な気持ちになります。

 実は、このロボット犬は「軍事用」に開発されたものです。というよりも、人型ロボットや動物型ロボットの多くは、軍事用に開発されているというのが社会の現実なのです。

 Spotを開発したボストン・ダイナミックスという会社は、現在はグーグルに買収され同社の傘下にありますが、もともとはMIT(マサチューセッツ工科大学)発のベンチャー企業として1992年に設立され、国防総省と共同でロボットを開発してきた企業です。

 日本ではロボットといえば、鉄腕アトムに代表されるような人型というイメージがあります。しかし現実にロボットが人の形をしている必要性はそれほど高くありません。

 人との対話に重点を置いたもの意外のロボットは、どんな形をしていてもよく、むしろ安定的で安価に作れる形状の方が望ましいわけです。日本以外の国では、必ずしもロボット=人型という認識にはなっていません。

robottoken

ロボットの最大のマーケットは軍事用
 しかしロボット先進国の米国では、人型や動物型のロボットがたくさん開発されています。その理由はロボット市場において最大の需要は軍事目的だからなのです。

 軍はこれまでに人間が操作することを前提に大量の装備を作ってきました。近い将来、戦争行為のほとんどがロボットで行われるようになるのはほぼ間違いありませんが、それまでには多少時間がかかります。過渡期には、人間の兵士とロボットの兵士が、一緒に戦うという場面が想定されるわけです。

 その時に、人間と同じ形をしていることはいろいろな面で有利になります。自動運転ロボットを搭載していない戦車でも、人型のロボットを乗せれば、たちまちロボット戦車に変えることができるからです。

 今回、開発されたロボット犬は、実用化されれば、敵地の偵察だけでなく、場合によっては、相手の殺傷に用いられる可能性が多分にあります。蹴られている姿は確かに可哀想なのですが、実は、わたしたち人間を殺すためのロボット犬なわけです。

 以前、日本の防衛省が開発した地球儀サイズの小型無人機がテレビで紹介されていたのですが、女性レポーターが自分を追いかけてくる無人機に「わーっ!」と言いながら楽しそうに逃げ回っていました。

 確かに、その動きそのものはユーモラスなのですが、これを開発している目的はあくまで軍事用です。近い将来、小型無人機が建物の中にまで侵入して人を追いかけ回し、自動的に敵か味方かを選別して、その場の判断で殺傷するということが現実の出来事になるでしょう。

 新しい技術が登場してくると、その一部は必ず軍事目的に使われます。これを感情的に批判しても、あまり意味がありません。技術の進歩を止めることはできませんし、軍事部門も当然その例外ではないからです。

 一方で、新しい技術をあまりにも無邪気に受け止めるというのも、あまり望ましい姿とはいえないでしょう。技術が持つ、様々な側面について、私たちは常に気を配る必要がありそうです。

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