経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 文化

いじめ問題を解決するためのヒント

 学校におけるいじめが大きな社会問題になってから久しいですが、根本的な解決策はなかなか見つからないようです。
 いじめの背景には、日本社会の構造そのものが大きく関係していますから、根絶はそう容易なことではないでしょう。しかし、こうした現象も、社会の制度を少し変えるだけで、大きく改善する可能性があります。

日本はいじめが多い方ではないが、再発・長期化する傾向が強い
 全国都道府県教育長協議会は2015年1月、諸外国におけるいじめ問題の比較研究の結果を発表しました。
 これを見ると、いじめ問題は、人間関係の狭さや、生活環境の多様性のなさとの相関が大きいようです。逆に考えれば、狭い人間関係を継続させないような工夫があれば、いじめ問題を軽減できる可能性が見えてくるわけです。

 いじめ問題は当然のことですが、日本だけのものではありません。しかし、いじめの内容は各国によって異なっているようです。報告書では、日本、ノルウェー、英国、オランダの各国におけるいじめの状況を比較しています。

 日本におけるいじめの被害経験者率は13.9%と英国(39.4%)やノルウェー(20.8%)などと比較するとかなり低くなっています。日本では、いじめに遭う確率そのものは、諸外国に比べて低いのです。

 しかし、そうだからといって日本の学校がよい環境なのかというとそうではありません。

 いじめが再発したり、いじめ被害が再発したり長期化する傾向は、日本が17.7%ともっとも高くなっています。ノルウェーは17.1%と比較的高いですが、英国は12.4%、オランダは11.7%と低い数値です。つまり、日本の場合、いじめに遭う確率は低いものの、一旦いじめに遭ってしまうと、それが長期化してしまうのです。

 いじめられた経験があるという人は多いものの、一時的なもので終わる社会と、いじめられる確率はそれほど高くないものの、一旦いじめられてしまうと、半永久的にそのいじめが続く社会のどちらが健全でしょうか?
 考え方にもよりますが、やはり日本型の方が、陰湿で不健全なように思います。

 では、日本とノルウェーはなぜこのような傾向になるのでしょうか? 報告書では学校の制度が大きく影響していると分析しています。

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人は定期的に入れ替わる方がよい
 日本やノルウェーは、全員に同一の教育システムを長期間提供するという、いわゆる単線型教育システムです。これに対して英国やオランダでは複線型教育となっており、様々な進学プランが用意されています。

 単線型・複線型には、それぞれ長所短所がありますが、確かに複線型教育であれば、人間関係は短期間で入れ替わりますから、特定の人に対するいじめが半永久的に続くということはなくなる可能性が高いでしょう。

 複線型教育はこれからの時代にもマッチしていると考えられます。日本が途上国の時代には、全員に一定レベルの教育を施す政策には意味がありました。工業製品の大量生産を行うにはこうした画一的な教育が効果的だったわけです。

 しかし、現在の日本は、成熟社会となり、脱工業化時代を迎えています。こうした時代には、新しい付加価値を生み出す能力が強く求められます。このような能力を身につけるためには、多様な価値観を持った人たちが相互に影響しあうことが重要です。

 その点で、様々なプログラムが提供される複線型教育は効果的といえるでしょう。複線型教育システムになれば、同じような属性の人が、長期間、同じコミュニティーにいる割合も小さくなりますから、必然的にいじめ問題も長期化せずに済むわけです。

 この構造は、社会人になっても基本的に同じことです。日本は終身雇用が前提で、一度会社に入ってしまうと、そのコミュニティが半永久的に続いてしまいます。

 10年ごとに人が入れ替わり、様々なバックグラウンドを持った人が集まれば、常に多くの刺激を得ることができます。また、一度や二度、失敗しても、復活のチャンスが出てきますから、働く人の気持ちに余裕が出てくるでしょう。
 学校と同様、ある程度の頻度で人が入れ替われる社会になれば、会社内部でのいじめもかなり緩和されるのではないでしょうか。

 これは対症療法的なやり方に過ぎないかもしれませんが、人は思いのほか、環境から影響を受ける動物です。人の入れ替わりによっていじめが減ってくると、いじめを生み出す精神的な構造も変化してくるかもしれません。

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