経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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「パクリだけでレポートを作成せよ」という画期的な大学の課題

 「パクリ」だけでレポートを作成しなさいというユニークな大学の課題が話題となっています。レポートの作成に際して学生がネットからコピペするのは、もはや当たり前ですが、これを逆手にとった課題というわけです。これは、知的作業というものの本質を突いた、なかなか画期的な取り組みといってよいでしょう。

創造性というものの本質
 課題を出したのは大阪私立大学大学院文学研究科の増田聡准教授です。増田氏は学生に対して、コピペだけでレポートを作成するよう課題を出しました。完全なパクリであることが条件で、一言一句変えてはダメですし、自分で文章を付け加えてもいけません。

 しかも採点は非常にシビアで、ただコピペすればいいというわけではないそうです。論旨や文章が支離滅裂なものは単位を認定せず、全体的な完成度を高めるよう留意する必要があるとのことです。

 この課題は知的作業というものの本質を突いており、非常に画期的な取り組みいってよいでしょう。

 世の中では創造性という言葉が過剰に意識される傾向があります。
 
 確かに創造性は大事なことなのですが、何もルールがないところからは、創造性は生まれません。一定のパターンが存在し、それを基礎にすることで、初めて創造性が生まれてくるものです。したがって創造性の高い仕事をするためには、その基礎を身につけるためのトレーニングが非常に重要となるのです。

 その意味で筆者は、完成度が高いと思われる他人の文章を参考に、そこから自分なりの論旨を作っていくという作業は大事なプロセスだと考えます。

 インターネット時代おいては、こうした考えた方はさらに重要となるでしょう。インターネットが登場する前までは、知識を持っていることそのものに価値がありました。しかしネット時代はそうはいきません。単純な知識はいくらでもネットで手に入るからです。

pakuri

知的生産の枠組みは変化している
 これからの時代は、ネット上にある無数の単純知識の中から、自分にとって必要で、かつ正しいものを選択し、そこに自分の知見を付け加えて、さらに付加価値の高い知的生産物を生成する能力が重要となってきます。
 パクリだけで完全なレポートを作成するという増田氏の課題は、こうした能力を身につけるための有効なトレーニングになると考えられます。

 むしろ自身でレポートを作成するよりも、高いスキルが必要となるかもしれません。なぜなら、人が書いた文章に一切手を加えず、自分でも加筆しないで、論旨が通っている文章を作成するというのは、他人が書いた文章を完璧に理解していなければ実現不可能だからです。

 自分で書いたレポートの場合には、多少ロジックがおかしくても、前後のつながりから何となくニュアンスを伝えることができるかもしれません。実際、多くの人が書く日本語の文章はそのようなものです。
 しかし他人の文章の場合にはそうはいきません。何も考えずに、似たような感じの文章をつぎはぎしていては、おそらくメチャクチャな文章になってしまうでしょう。

 こうしたパクリレポートをしっかりと仕上ることができる人は、質の高いオリジナルな文章を簡単に作成することができるはずです。逆にこのパクリレポートをこなせない人は、オリジナルな文章を書いたとしても、その質は低いままでしょう。

 これは企業のビジネスモデルや技術についても同じ事がいえます。

 時には、従来の常識を覆すまったく新しい知見が出てくることもあるかもしれません。しかし、それは例外中の例外です。多くの優秀なビジネスモデルや技術というものは、他のビジネスモデルや技術を参考にして、その上に形作られるものです。

 優秀な他者の生産物をうまく模倣できない人は、結局、オリジナリティの高い生産物を作ることができません。他者をうまく模倣できるということは、どこが優秀なのか100%理解できているということを意味します。それができる人であれば、結果的にオリジナリティの高い仕事もこなせる可能性が高いわけです。

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