加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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ヤマト運輸のメール便廃止から考える、日本の「法」に対する考え方

 

 郵便事業における信書の扱いをめぐって、ヤマト運輸と政府がバトルを展開しています。ヤマト運輸では、信書に対する政府のスタンスが不透明だとして、クロネコメール便を3月31日で廃止すると発表したのです。

何が信書で何が信書でないのか国民は分からない
 現在、郵便法では「信書」の送付は日本郵便だけに認められています。問題となっているのは、どんな郵便物が信書に該当するのかハッキリしていないという点です。

 法律上、信書の定義は「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、または事実を通知する文書」というものなのですが、これを見ただけでは、何が信書で何が信書ではないのか、判断できる人はほとんどいないでしょう。実例を聞くとさらに混乱してきます。

 履歴書を企業に送るのは事実の通知が含まれるので法律上は信書に該当します。履歴書の送付にメール便を使うと、理屈の上では、違法行為として摘発されてしまうわけです。一方で、企業から履歴書を返送するのは、事実関係の通知がないので信書にあたらず、メール便を使っても罰されることはありません。

 このような曖昧な基準では、利用者が内容を理解できるはずがありません。それだけならいいのですが、この条項に違反して信書をメール便で送ってしまうと、法律上、サービスを提供した事業者だけでなく、送った利用者も処罰の対象となるのです。違反した者には、3年以下の懲役または300万円以下の罰金というかなりの重罪です。

 このような法律が出来ているのは、当然のことながら、日本郵便の独占事業を守るためです。郵便事業を特定事業者に独占させているのは、人口の少ない地域も含めて、全国にサービスを提供する必要性があるとの考え方からです(それが正しいのかは別にして)。

 つまり、国民の生活水準を維持するための法律であり、刑法のように犯罪者を罰する法律ではありません。しかも、この法律については、現在、様々な意見があり、まだまだ議論が必要な状況です。

 このような状態であるにもかかわらず、この法律に違反した人は、利用者も含めて重罪にするというような恐ろしいことをしているのは、先進国ではおそらく日本だけでしょう。
 信書をめぐっては、郵便法に違反しているとして、警察から事情聴取を受けたり、検察に書類送検されるケースが2010年までに79件も発生しているそうです。

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法に対する考え方が硬直化している
 ヤマト運輸では、今の状況では、自社のみならず、顧客が逮捕されてしまうという事態になりかねないと判断し、やむなくサービスを停止したとしています。

 もちろん、ヤマト運輸はこうした理由だけでサービスをやめたわけではありません。同社にとって、個人向けメール便の採算が悪いという事情があり、同社は、企業のDM送付などを目的とした類似のサービスを4月1日に開始する予定です。今回の措置は、企業向けサービスにシフトするための口実だとの指摘もあります。

 ただ、仮にそのような面があるにせよ、重い刑罰を伴う法律で、特定企業の独占を維持している事実に変わりはありません。これは、本来の郵便法の主旨にも反することといってよいでしょう。
 なぜなら、郵便法は、国民の生活水準維持のため、結果として日本郵便という特定企業を優遇しているのであって、特定の組織を守るための法律ではないからです。

 日本人は、制定された法が絶対であるという意識が強すぎ、法の背景に存在している理念というものを忘れがちです。
 法には、まず基本的な理念というものがあり、それを実現するための手段として具体的な条文が制定されることになります。つまり条文に書いてあることが絶対に正しいとは限らないのです。法の背景にある理念と比べて、現実の条文が乖離していないか、常に議論を続けていくことが重要なのです。

 こうした考え方を「法の支配」と呼び、定められた条文が絶対だとする形式的法治主義とは明確に区別されています。簡単にいってしまえば、「法の支配」の下では、悪法は法ではなく、「形式的法治主義」の下では悪法も法ということになります。

 こうした概念がもう少し、国民の中で明確になっていれば、郵政民営化問題をどのように結論付けるのかはともかくとして、このような法律が出来ることはなかったはずです。

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