加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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長期的な戦略を持つことは、どの程度有効なのか?

 

 一般的に、長期的な視点に立って戦略を立案することはよいことだとされています。これに対して、短期的な利益の追求は否定的なニュアンスで語られます。基本的にこの考え方は間違っていませんが、多くの誤解が生じていることも事実です。

米国企業は目先の利益ばかり追求しているといわれるが・・・
 日本企業と米国企業の比較ではよくこのテーマが議論となります。日本企業は目先の利益を追わず、長期的な視点で経営を行っているのに対して、米国企業は目先の利益ばかり追求しているという論調が一般的でしょう。

 確かに米国の経営者は株主から強烈なプレッシャーにさらされていますから、とにかく利益を上げなければなりません。長期的な戦略以前に、まずは目の前のお金が最優先という経営を行っていることは紛れもない事実です。

 米国の企業がこうした風潮になったのはレーガノミクスによる規制緩和が進んだ1980年頃からです。米国企業はそれ以降、基本的に、目先の利益ばかり追求してきたのですが、なぜか30年にもわたって高い利益を上げ続けています。つまり目先の利益を追いかけ続けた結果、長期的な利益も獲得してしまったわけです。

 これと正反対なのが、日本企業です。日本企業は長期的視点に立って経営を行い、目先の利益を追求しないという方針でした。今でも基本的なスタンスは変わっていないでしょう。その結果、20年もの長期にわたって日本企業の業績は低迷し続けています。

 少し意地悪な言い方をしましたが、一見矛盾する米国企業と日本企業の結果の違いに、この問題を解くヒントがありそうです。

tankichoki

変化に柔軟に対応することこそ長期的戦略
 長期的な戦略が有効であるためには、経済や社会の仕組みが変化しないという大前提が必要です。その意味で、戦後というのは変化が少なく、長期的戦略を立てやすい時代だったと考えることができます。

 戦後は、成長率こそめざましい水準でしたが、社会や経済の基本的な枠組みは大きく変化しませんでした。高度成長を実現した日本はもちろんのこと、すでに成熟国家となっていた米国や欧州においてもそれは同じことです。

 しかし80年代以降、ITの急激な普及や新興国の台頭によって状況が大きく変化しました。先進国の成長率はむしろ鈍化していますが、社会の変化のスピードは逆に上昇しているのです。

 人間の想像力というものは、たかが知れていますから、変化が激しい時代において、10年、20年先を正確に予測することはほぼ不可能です。むしろ、目の前の利益を確実に捉え、変化に対して柔軟な体制を構築する方が、長期的にも有利になっているのです。

 その点において、米国企業は変化に対して極めて敏感でした。中国のコストが安いとなると、一気に中国に進出し、あっという間に米国内の工場は消えてなくなりました。

 事務処理のアウトソーシングが可能だということになると、システム部門や経理部門などをまるごと廃止し、すべてインドに放り投げてしまいます。
 最近では、シェールガス・ブームで米国のエネルギーコストが劇的に下がり、今度は怒濤の勢いで米国内に工場を戻しています。

 確かに目先の利益ばかり追求しているように見えますが、世界も常に変化しているので、結果的に米国企業の行動は、長期的利益に合致することになっているのです。

 目先の利益を追求しないというのは、もしかすると、変化したくないことのエクスキューズ(言い訳)かもしれません。変化が激しい時代であることを考えると、日本企業はもっと短期的な利益に注目してもよいのではないかと思います。

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