経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. テクノロジー

LINE森川社長退任から考える会社の支配権

 無料通話チャット・アプリLINEの森川社長が突然、退任することになりました。本格的な世界展開に向けてこれからという時ですから、退任の背景をめぐっては様々な噂が流れているようです。
 退任の本当の理由は分かりませんが、今回の出来事は、わたしたちにとって、会社の支配権というものを考えるよい機会となるでしょう。

退任の本当の理由は不明だが
 LINEは、2014年12月22日、森川亮社長兼最高経営責任者(CEO)が2015年3月に退任し、最高執行責任者(COO)の出澤剛(いでざわ・たけし)氏が昇格すると発表しました。森川社長は顧問に退きますから、実質的に同社から離れることになります。

 森川氏は、まだ47歳ですが、同社の社名がまだNHN Japanだった頃から社長を務めているベテラン経営者です。森川氏は退任の理由として「次のステージに移るタイミング」であるとしていますが、額面通りに受け取る人はほとんどいないでしょう。

 結局、上場は延期になったものの、株式を公開して、これから本格的に世界展開を進めるという矢先のことですし、つい最近まで今後の経営戦略について積極的にメディアに語っていましたから、やはり自ら望んだ人事ではないと考えられます。

 退任の背景については、韓国本社との方向性の違いなど、様々な憶測が飛び交っており、真相は定かではありません。しかしながら、同社に限らず外資系企業のトップが交代するケースのほとんどが本社(株主)の意向であるというのは、この世界の常識といってよいものです。

 日本社会は所有していることと、それを運営していることが、ややもすると混同されがちです。しかし、株式会社という形態は、所有と経営を明確に分離し、会社の所有権はすべて株主が持つということを前提に作られた制度です。
 その制度を選択している以上、人事を含めて所有者の意向は絶対であるという現実を忘れてはなりません。

linemorikawa

米国トヨタは日本の会社?米国の会社?
 LINEは韓国企業であるネイバーの子会社ですから、LINEの所有者は韓国のネイバーということになります。確かにLINEは日本発のサービスで、日本人の手によって運営されていますが、その権利はすべて韓国側にあるわけです。

 同社に限らず、外資系企業のトップの人は、通常、この事実をあまり口にしたがりません。その理由は、日本という外国(韓国から見れば)にうまく馴染まないと、日本国内でスムーズにビジネスができないからです。

 筆者は、企業やそこで働く人達の国籍について、基本的にこだわる必要はないと考えています。一方で、企業の存在について自国の誇りとする考え方があることも理解できます。
 そういった視点に立った場合、LINEを含む外資系企業は、本国からみれば、日本のものではないという価値観が成立することも理解しておくべきでしょう。

 このことは立場を逆にしてみれば分かります。トヨタ自動車は、日本人を代表する企業であり、一部の人にとっては日本の誇りともいうべき存在になっています。

 しかし、トヨタの主戦場は米国市場であり、米国トヨタには多数の米国人が働いています。そして、米国トヨタは完全に米国社会に溶け込んでいます。ソニーにいたっては、多くの米国人が米国の会社だと思い込んでいるくらい、米国社会に馴染んでいるのです。

 しかし、こうして米国社会に馴染んでいるトヨタやソニーについて、米国の会社だと考える日本人はほとんどいないでしょう。これはLINEにとっても同様で、やはり韓国からみれば、まぎれもなく韓国の会社なわけです。

 企業の経営戦略や方向性を評価する際には、どの国籍の人が経営していようと、株式会社である以上、誰が所有しているのかがもっとも重要なファクターとなります。こういった視点を持つことができれば、企業に対する見方もだいぶ変わってくるのではないでしょうか。

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