経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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通貨ルーブルの暴落で、ロシア経済は少々危険な状態に

 ロシア経済が、少々危険な状況になっています。ウクライナ問題に対する経済制裁と原油価格下落のダブルパンチで、同国の通貨ルーブルが暴落しているのです。場合によってはちょっとした金融危機が発生する可能性も出てきたといえるでしょう。

通貨暴落でインフレが加速
 2014年12月15日の外国為替市場では、ルーブルが対ドルで1日に10%以上も下落しました。続く16日にも10%以上の下落となり、ここ5カ月で価値が半分以下になっています。国内ではインフレが急激な勢いで進んでおり、国民生活を直撃しているようです。

 ルーブル下落のきっかけは、ウクライナ問題を発端とする西側各国による経済制裁です。経済制裁が発動された2014年7月以降、ロシアからの資金流出と通貨ルーブルの下落が始まりました。当初は、ロシア中央銀行が積極的に為替に介入したこともあって、下落のスピードは今よりも緩やかなものでした。

 ところがこうした状況を一変させたのが原油価格の下落です。原油価格はここ数ヶ月で半分近くに値下がりしています。ロシアには目立った産業がなく、原油や天然ガスの輸出以外に外貨を確保する手段がありません。
 原油価格が100ドルから65ドルに下落すると、ロシアは年間で12兆円ほどの損失になる計算で、これはロシアの国家財政を直撃します。

 ロシアの外貨不足は徐々に深刻になっており、ロシア中央銀行は11月10日、とうとう通貨バスケット制による通貨安定策を放棄しました。これをきっかけにルーブルの下落が加速しています。同時に国内のインフレも進んでおり、市民は急激な物価高でかなりの混乱となっているようです。

 ロシア中央銀行はインフレを抑制するため、政策金利を一気に6.5%引き上げて年17.0%にすると発表しましたが、どれだけ効果があるのかは未知数です。

 特に問題となっているのが住宅ローンです。ロシアのように経済が貧弱で、しっかりとした金融システムがない国は、国民に対して十分なレベルの住宅ローン商品を提供できません。ロシアでは、ユーロ建てやドル建ての住宅ローン商品も多く、こうしたローンを利用していた人達はルーブルの暴落で一気に破産に追い込まれているわけです。

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原油価格は米国の意向との報道も
 ロシア全体としたみた場合、過去の石油輸出で蓄えた55兆円の外貨準備があり、すぐに金融危機を起こす状況ではありません。しかし、これ以上、ルーブル安や資金流出が続けば、大手企業でも資金繰りに苦慮するところが出てきてもおかしくありません。
 ちょっとした金融クラッシュが発生する可能性は考えておくべきでしょう。

 真偽の程は定かではありませんが、欧米メディアでは、米国がロシアに対して打撃を与えるため、サウジアラビアに石油を減産しないよう要請したとの報道もあります。これが正しいのかどうかは分かりませんが、結果的にOPEC(世界石油輸出国機構)が減産を見送ったことが、ロシアに対するダメ押しになってしまいました。

 ロシアは無理して軍事力を行使していますが、同国のGDPは米国の7分の1、中国の5分の1しかなく、経済的には弱小国に過ぎません。経済制裁や資源価格の変動があると、ロシアのような国にとっては大打撃となってしまいます。戦争をすることなく、実質的に勝敗がついてしまうわけです。

 またロシアはフランスから最新鋭の揚陸艦を輸入せざるを得ないなど、ハイテク兵器の自国生産にも事欠く状況です。見かけ上の軍隊のオペレーションだけを見ていては国力を見誤る典型的なケースといってよいでしょう。

 現代の戦争は、その国の経済力や技術力に大きく依存するようになっています。かつてロシアは軍事大国であり、中国は兵員数だけは多いものの、強い軍隊を持つ国とは見なされていませんでした。しかし中国とロシアの経済規模が逆転しているのはもちろんのこと、中国が圧倒的な差を付けてリードしています。

 また中国は、世界中から最新技術をかき集め、自国の開発に応用しようとしています。こうした現状を考えれば、中国の軍事力は決して侮れない水準になっていると考えるべきでしょう。
 いずれにせよ、一連のロシアの出来事は、強い経済を持っていることがどれほど重要なことなのかについて、私たちに教えてくれています。

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