ローマ法王庁は2014年12月6日、バチカンの不動産売却に関連した不正疑惑に関して、バチカン銀行幹部の口座が司法当局によって凍結されたと発表しました。フランシスコ法王は不正撲滅に大なたを振るっているといわれており、今後、どのような改革が行われるのか注目されています。
バチカン銀行の改革に関する議論は以前からあった
2013年に新しいローマ法王に就任したフランシスコ法王は、以前からマネーロンダリングに関する疑惑が取り沙汰されていたバチカン銀行の改革に積極的に取り組んでいます。
ここではバチカン銀行と書きましたが、実際にはバチカン銀行という名称の銀行はありません。ローマ法王庁における「宗教事業協会」という団体のことを世間ではバチカン銀行と呼んでいます。
この団体は、バチカンの完全な独立を保証した有名なラテラノ条約による賠償金を元に設立されたカトリックの資金運用組織で、実際の資金運用業務は民間の金融機関を通じて行われています。
しかし、カトリックは非常に長い歴史を持った団体ですから、世界各地に様々なしがらみを持っています。そうした中で不正資金の一部がバチカン銀行を経由してロンダリングされていると指摘されており、フランシスコ法王は透明性確保という観点からこれを改革しようとしているわけです。
実はこうした動きは過去にも何度かありました。もっとも有名なのは、1978年に起きたヨハネ・パウロ1世の暗殺疑惑でしょう。
1970年代、米国のマルチンクス大司教は、マフィアと組んで大規模な資金洗浄を行っていたといわれています。70年代は、まだラスベガスがマフィアの勢力下にあった時代ですから、こうした取引が行われていたことは容易に想像できます。
1978年に法王に就任したヨハネ・パウロ1世はバチカン銀行の改革に着手したのですが、就任後わずか33日で死去してしまいます。その後、バチカン銀行の主力取引行が破綻し頭取が謎の自殺を遂げたり、この件を捜査していた捜査官が殺害されるなど、不可解な事件が相次いだことから、事件へのマフィアの関与が噂されました。
一連のこの疑惑は、フランシス・コッポラ監督の有名な映画「ゴッド・ファーザーPARTⅢ」で克明に描かれています。内容は脚色してありますが、基本的には現実にあった話がベースになっています。
ネット社会がもたらす価値観の多様化は宗教をも変えようとしている
フランシスコ法王は、カトリックの歴史上初のイエズス会出身の法王ですし、しかも南米出身ですから、ローマにいる伝統的なバチカン官僚とはあまり利害関係がありません。このため、あらゆる改革に対して前向きだといわれます。
フランシスコ法王がここまで改革に積極的なのは、社会や経済のグローバル化が急速に進み、従来の体制ではカトリック教会が影響力を維持し続けることは困難だと考えているからです。
ネットの普及で、全世界で多くの人達が、同じ情報を共有するようになっています。一方で、地域に根ざしていた文化は、良い意味でも悪い意味でも、消滅しつつあり、価値観の多様化が進んでいます。その典型的な例が同性愛でしょう。
同姓愛や同姓婚はカトリックを含め、いくつかの宗教団体では、非常にタブー視されてきました。しかし、典型的なカトリックの国であるフランスにおいて、同姓婚が合法化されるなど、価値観多様化の流れはもはや止められなくなっています。
カトリック教会は、同性婚を認めたわけではありませんが、従来の価値観を頑なに守り続ける教会の姿勢と、特権階級的な教会組織のあり方は、一部の人達からは同一の問題と見なされています。教会が持つ特権的な立場を象徴するバチカン銀行の改革に前向きなのは、このあたりに理由がありそうです。
ちなみに英国国教会では、大激論の末、女性の主教就任を許可しました。一連の動きをリードしたのは、新しくカンタベリー大主教(英国国教会では最高位の聖職者)に任命されたジャスティン・ウェルビー氏という人物なのですが、彼はケンブリッジ大学出身のエリートで、石油会社のビジネスマンとして活躍していたことでも有名です。宗教上のリーダーの経歴も大きく変わってきているようです。
筆者も含めて多くの日本人は、いわゆる無宗教(お葬式はお寺で、結婚式は神社というパターン)ですので、こうした話にはあまりピンときませんが、キリスト教社会において、宗教上の基本的な価値観が変わるというのは、極めて大きな出来事です。
それほどに、グローバル化やIT化がもたらす影響は大きいということをわたしたちは理解しておく必要があるでしょう。