経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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中国と台湾の接近路線が見直し?

 台湾の馬英九総統は、11月29日に行われた統一地方選挙で敗北した責任を取り、国民党の党主席を辞任しました。2016年には台湾総統選挙が控えており、世論の動きによっては中国との接近路線が見直される可能性も出てきました。

かつての敵は今日の友
 もともと台湾は中国本土の統治をめぐって国民党と共産党が対立、内戦の結果(国共内戦)、国民党が台湾に逃れたことで成立した国です。

 中国と台湾は互いの存在を認めておらず、双方が正当な中国政府であると主張してきました。日本は共産党政権の方(中華人民共和国)を正式な政府と認めており、台湾は承認していません。このため日本では台湾のことを「国」ではなく「地域」と呼びますが、台湾を国家として承認している国も存在しますから、ここでは「国」として話を進めていきます。

 台湾の国内には、国共内戦以前から台湾に住んでいた本省人と、国民党の台湾避難をきっかけに本土からやってきた外省人との間で対立があります。
 本省人の中には、中国としてではなく、台湾として独立したいと考える人も少なくありません。このため1990年代頃から台湾の独立運動が活発化、2000年には独立を主張する民進党の陳水扁氏が総統に就任しました。

 しかし、陳水扁氏は金銭スキャンダルなどで支持を失い2008年には総統を辞任。同年の総統選挙では国民党の馬英九氏が当選し、結局、国民党政権に戻っています。国民党と中国共産党は敵対関係にあったわけですが、今となっては、台湾の国民党が巨大な中国政府を破って、中国の支配者になるということは現実的ではありません。

 また独立支持派に政権を奪われてしまうと、せっかく築いた既得権益を手放すことになってしまいます。このため、国民党支持者の中には、中国との統一、あるいは現状維持を望む人が多くなっています。
 一方、中国にとっても台湾が独立されてしまうと非常に困ります。敵の敵は味方という言い方が正しいのかは分かりませんが、かつて血みどろの争いをした中国共産党と国民党は手を組む方向に変化したのです。

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中国の存在を前提にした運動に変化
 このため、馬氏は総統就任後、急速に親中国路線を進め、中国側も台湾の財界人に対して中国国内における破格の待遇を与えるなど、中台経済の融合が進められてきました。
 台湾の企業でありながら、中国本土を中心に世界に事業展開している鴻海精密工業(iPhoneの製造請負で有名)は、こうした中台接近を象徴する企業といえるでしょう。

 しかし本省人を中心に、反中国感情は根強く、今年4月には、中国との経済協定に反対する学生が立法院(国会)を占拠するという事件が発生しました。馬英九政権が2013年に中国と調印したサービス貿易協定が、中国に有利なものとなっており、台湾の中小企業への打撃が大きいというのがその主な理由です。

 ただ中国との接近に反対している人達も、圧倒的な中国の存在はすでに認めています。かつてのように何が何でも台湾が独立することを望むのではなく、中国の存在を前提にした上で、むしろ国内の民主化などを求める形に運動の方向性が変わっています。

 2016年には台湾の総統選挙が行われる予定ですが、国民党は内部対立が激しく、選挙は混迷が予想されています。国民党が党の立て直しに失敗すれば、2016年の総統選挙で民進党に政権を明け渡してしまう可能性もあるでしょう。
 もしそうなった場合には、台湾独立という話にはならないまでも、少なくともこれまでのような中台接近路線が見直されることは確実です。

 中国は何としても世界のリーダーになりたいと考えており、台湾を武力で併合するようなことは、実質的に不可能となっています。台湾と中国に距離ができるような事態になれば、中国の国内政治にも何らかの影響が出てくるかもしれません。

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