経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 政治

米国の格差問題と日本の格差問題

 米国経済は順調な回復を見せていますが、一方で、富の格差がなかなか縮小しないという問題がクローズアップされています。
 先日、米国では中間選挙が行われたのですが、予想通り、民主党が大敗北を喫してしまいました。その理由のひとつには、格差縮小を民主党に期待した層からの失望があるといわれています。

 日本は、かつては一億総中流などといわれていたのですが、それは昔の話です。ようやく日本でも、格差問題が深刻であることに多くの人が気付き始めています。米国の格差問題と日本の格差問題にはどのような違いがあり、日本はこれからどうすべきなのでしょうか?

日本と米国は先進国ではトップの格差大国
 米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が行った調査では、アメリカの富の約半数を上位3%の世帯が独占しているそうです。

 日本の報道は、基本的に米国内の論調をそのまま踏襲しますから、米国は大変な格差社会であるという主旨で報道が行われます。しかし現実には、日本の格差は、すでに米国並みとなっており、米国と並んで日本は、先進国の中でも断トツの格差大国となっています。

 確かに日本には、米国にいるような資産何兆円という大富豪はほとんどいません。その点では、日本と米国は大きく異なっています。しかし逆にいうと、米国の格差は、こうした突出した大富豪が平均値を引き上げている側面が強いと解釈することもできます。

 実際、資産数千万以上を保有する世帯の割合や相対的貧困率といったデータを用いた場合、日本と米国の格差はほぼ同程度ということになります。

 一部には相対的貧困率のデータは無意味という見解がありますが、それは正しくありません。生活保護を基準にした絶対的貧困でも日本の貧困率はやはり高い数値となります。

 また米国は一般に低福祉といわれていますが、これも欧州を基準にした米国内での論調をそのまま輸入しているにすぎません。日本を比較対象とした場合、米国の低所得者向け福祉は、日本と同程度か、むしろ手厚い面すらあるのが現実なのです。

 一部には格差が付くことはやむを得ないことであり、是正する必要はないとの意見もあります。ただ、現実問題として、格差があまりにも拡大してしまうと、中間層以下の消費が低迷し、経済全体にとってデメリットの方が大きくなります。やはりある程度の格差是正は必要と考えられます。

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米国は解決が容易だが、日本は解決のための原資がない
 重要なのは、こうした格差をどのようにして是正するのかという具体策になりますが、この点で米国は非常に楽観的状況にあります。その理由は、米国の格差は基本的に富裕層への優遇から生じているからです。

 米国は富裕層に対して優しい国です。オバマ大統領はブッシュ政権が導入した富裕層向けの減税の打ち切りを何度も主張してきましたが、共和党の抵抗でなかなか実現できませんでした。
 逆にいえば、政治的に決断さえできれば、増税はすぐにでも可能であり、富裕層から低所得層への所得移転は簡単に実現することができます。

 これに対しては日本はまったく正反対の状態にあります。

 よく知られているように、日本は累進課税制度を導入しており、すでに富裕層から多額の税金を徴収しています。年収2000万円の人は、状況によって異なるものの、おおよそ十数%の所得税がかかっていますが、年収300万円の人は2%程度しか課税されていません。
 年収600万円でも状況は大きく変わっておらず、日本では中間層以下は実質的に所得税が無税の状態にあるといってよいのです。さらに年金や医療といった社会保障を考えれば、富裕層の負担はさらに重くなります。

 一方、源泉徴収の対象となる給与所得者のうち年収が1000万円を超える人は全体のわずか約4%ですが、その人達が支払う所得税は全体の50%近くを占めています。つまり、全体の4%に過ぎない高額所得者が、全体の半分の税金を支払っているわけです。

 これは何を意味しているでしょうか?

 日本は、中間層以下を実質的に無税とし、累進課税による所得の強制配分を行っても、貧困率が米国と同水準なのです。つまり、日本には中間層以下に配分する原資がもうないのです。この現実はかなり重いと考えるべきでしょう。

 米国はお金はたくさんあるものの、一部の富裕層が独占しています。一方日本は、そもそもお金がないので、富裕層から徴収しても低所得者層に十分に再配分できない状態が続いています。この問題の解決はそう容易なことではありません。

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