経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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女性のプチ起業が思わぬところで波紋?

 このところ、女性の就労機会の拡大が社会的課題となっていますが、女性の「プチ起業」はその有力な解決策のひとつとして期待されていました。しかし最近、この「プチ起業」の世界において、ちょっとした問題が起こっているそうです。
 プチ起業をした女性が、破格の安値で製品やサービスなどを提供してしまうので、真剣に事業を行っている女性起業家が困っているというものです。

プチ起業家が破格の安値攻勢?
 日本では結婚、出産後に職場復帰するのが難しいといわれています。またそれが可能であったとしても、子育てなどと両立するのは並大抵のことでありません。

 このため、自宅で自分のペースでビジネスができる「プチ起業」に注目が集まっているというわけです。料理や子育の知識を人に教えるカルチャースクール系の仕事、ちょっとした小物の製作、ネットショップの運営など、その形態は様々です。

 ところが、このプチ起業に関して、ちょっとした問題が発生しています。プチ起業家の女性があまりにも安い価格で製品やサービスを提供してしまうので、本格的に事業を行っている女性起業家が困っているというのです。

 確かに、専業主婦だった人が、自宅で事業を始めた場合、そのコストは限りなく小さくなります。利益よりも、まず仕事を獲得することを優先し、価格を大幅に下げる人が出てきても不思議ではありません。

 また事業としての採算性がよく分からないままスタートしてしまい、結果的に破格の安値になってしまった人もいるでしょう。さらにいえば、世の中の役に立っているということで満足してしまい、そもそもビジネスになっていないというケースもあると考えられます。

 確かに真剣にビジネスをしている女性起業家から見れば、こうしたプチ起業家は迷惑な存在かもしれません。また専業主婦という特殊な環境が存在していることで、こうした一種の価格の歪みが形成されてしまうというのも事実でしょう。

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同じようなことがあちこちで起こっている
 ただ、全体的に考えれば、こうした状況が発生してしまうのはやむを得ないことです。厳しいようですが、子育てママが片手間に行ったビジネスで顧客を奪われてしまうような製品やサービスには、もともと高い付加価値はなかったと考えるのが妥当です。

 本当の意味で、起業家として事業を展開するのであれば、こうした、アマチュア的に市場に参加してくる人の存在も想定しておく必要があるのです。

 このような事態は、子育てママによるプチ起業の世界以外でも、あちこちで起こっています。ネット上で仕事の受発注を仲介するクラウドソーシングが発達してきたことで、あらゆる分野で価格破壊が起こっているのです。

 これまで、企業が使うデザイン性の高いパンフレットなどは、それなりのデザイン会社に高い制作料を払って作ってもらうのが当たり前でした。しかしクラウドソーシングが発達したことで、相当なレベルのデザインを、お小遣い程度の金額で発注できるようになってしまいました。

 確かに、これまでプロとして仕事をしていたデザイン会社には気の毒なことですが、半分アマチュアのデザイナーさんに仕事を取られてしまうようでは、プロとして失格なのです。

 これまで仕事になっていたのは、ネットという効率的なツールがなく、情報の非対称性が成立していたからに過ぎません。ママのプチ企業で苦境に立たされてしまう事業も同様であり、事業として継続していくためには、より付加価値の高い内容を提供していくしか方法はないのです。

最終的にはどこかでバランスが取れるはず
 もっとも、こうした価格破壊も永久に続くわけではありません。ママのプチ企業といってもいろいろです。そこから本格的にビジネスを拡大していき、プロとして自立する女性も出てくるでしょうし、一生、アマチュアのままという人もいるでしょう。

 アマチュアな状態から抜け出せない人は、結局のところ長続きしませんから、プレイヤーが無制限に増えてくるというわけでもありません。サービスと価格はどこかのレベルに収束してくるはずです。

 日本はこれまで非常に非効率な市場環境でした。こうした問題が発生するのは、効率的な市場環境に移行するまでの過渡期として、必ず通らなければならない道です。

 本格的に事業を行っている起業家の人は、せっかく高い能力があるわけですから、これをきっかけにより高い付加価値を持つ事業への転換を模索すべきです。あるいは、こうしたアマチュア的なプチ起業家を取りまとめて、それをビジネスにするような、逆転の発想が求められます。

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