経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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トヨタ自動車の業績が絶好調な理由

 円安の進行でトヨタ自動車の業績が絶好調となっています。一方で、輸入物価の上昇や円安倒産など、最近では円安のデメリットも強調されるようになってきました。
 果たして円安は日本経済にとってプラスだったのでしょうか?それともマイナスだったのでしょうか?

トヨタの業績はうなぎ登り
 トヨタ自動車は2014年11月5日、2014年9月の中間決算を発表し、今期の通期決算において、純利益が2兆円を突破する見通しであることを明らかにしました。円安の進展によっては、さらに業績が上振れする可能性もあります。

 業績が絶好調なトヨタとは正反対に、国内では円安で苦しむ企業が増えてきています。極端な円高だった2年前には、円安になれば、輸出が回復し、すべての経済的な問題が解決するかのようにいわれていました。しかし、実際に円安になっても、日本の輸出は増えず、逆に輸入物価の値上がりで生活は苦しくなっています。

 そもそも円安というものが、日本の経済や、私たちの暮らしにどのような影響を与えているのか、もう一度整理しておく必要があるでしょう。

 トヨタの業績が円安で絶好調なのは、日本からの輸出が増えたからではありません。

 トヨタは年間で約1000万台ほど自動車を生産しているのですが、その半分は海外で生産しています。さらに販売台数にいたっては、実に8割が海外向けです。

 つまりトヨタは海外で自動車を生産し、海外に向けて販売する会社になっています。トヨタの主戦場は米国市場ですから、米国で自動車を作って米国人に自動車を売っているわけです。
 米国では当然ドル建てで自動車を販売することになります。円安になれば、円換算した米国での販売金額は増えますから、トヨタの業績は拡大するわけです。

 ところが、日本全体で見るとそうはいきません。今までの日本は、日本国内で製品を作って海外に輸出していました。このため円安になれば、売上げは伸びたのですが、事の本質はそこではありません。
 円安になって海外での売上げが伸びることで、国内生産力の増強が行われ、これが景気拡大や賃上げに結びついてきたのです。

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海外の利益をうまく国内に還流させる仕組みが必要
 つまり円安そのものというよりも、それにともなう設備投資の拡大が国民にとって恩恵をもたらしていたわけです。しかし現在では、工場のほとんどは海外にシフトしています。海外で生産が伸びたとしても、国内の労働者や関連会社にはメリットがありません。

 円安になることで、日本メーカーの業績は伸びますが、国民の多くはそこから得られる利益を享受できないということになってしまいます。

 実は、このような状態になることはとっくの昔から分かっていたことです。現在は経済のグローバル化が進み、どこか1つの国が何かを作って世界に輸出するという時代ではなくなっています。つまり地産地消が当たり前になっているわけです。

 付加価値の低い工業製品は中国といった新興国が集中して生産する方が効率がよいですから、局地的な生産と輸出という体制が維持されています。しかし、そうではない製品は生産拠点の分散が進んでいるわけです。日本はコスト勝負で中国や韓国と争う国ではありませんから、日本国内から工場が移転していくのは、ごく自然なことなのです。

 今後はむしろ、海外展開している日本メーカーの利益がうまく国内に還元されるような仕組みを作っていく必要があるでしょう。株式の配当などを増やし、企業が海外で得た利益を国内市場に回していくのもひとつの方法といえます。

 企業の利益がうまく国内に還元されるようになってくれば、内需が拡大して、消費も活発になり、持続的な経済成長につながっていきます。そうなってくれば、賃金も上昇していきますから、輸入価格の上昇で生活が苦しくなるという事態も避けることが可能となります。

 本来であれば、円高の解消と同時に、こうした体質改善を進めていく必要があったのですが、円高さえ改善されれば、すべてがうまくいくという、安易な楽観論が支配してしまい、こうした施策が後回しになってきました。

 円安で輸出が増えないと嘆くのではなく、時代に合わせて産業構造を変化させ、柔軟に対処することが重要なのです。

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