経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

加谷珪一の投資教室 第9回

 前回は、財務諸表をチェックするにあたり、まずは売上高の推移を把握することが重要という話をしました。売上高の数字は企業評価の基礎となります。業界ごとの売上高の違いについて、おおよその感覚をつかむことができると、企業に対する見方はまるで変わってきます。

 ひとつの例をあげてみましょう。

 前回のコラムでは、トヨタは30兆円近くの売上高があり、ホンダは半分の規模しかないと説明しました。日産もホンダと同じような売上高です。2017年8月にトヨタとの資本提携を発表したマツダの売上高はわずか3兆円しかありません。






 

トヨタと比較すると、他の自動車メーカーの規模は著しく小さいことが分かります。トヨタを中心にすれば、マツダは中小企業にしかならないのです。

 しかし、この比較は自動車産業の中だけで通用する話です。

 先ほど筆者は、マツダの売上高は「わずか」3兆円で、マツダの規模は「小さい」と書きました。しかし、他の業種と比較すると話はまったく変わってきます。

 多くの人はソニーやパナソニックといった大手電機メーカーは、トヨタと同じような超巨大企業だとイメージしているのではないでしょうか。しかし、パナソニックの売上高は7.4兆円、ソニーの売上高は7.6兆円(2017年3月期)しかありません。

 ロケットや護衛艦などを製造している三菱重工の売上高は4兆円、一時、経営危機に陥った東芝は約6兆円となっています。いずれも日本を代表する巨大企業ですが、トヨタと比較するとかなり規模の小さい会社であることが分かります。

 この話は、他の産業と比較して、自動車産業の規模が突出して大きいことの裏返しでもあります。トヨタ1社だけで、これだけの規模ですから、自動車産業に部品や素材などを供給する関連産業を含めると相当な大きさとなります。自動車メーカーがなければ日本の鉄鋼メーカーの売上高は大幅に減ってしまうでしょう。






 

 海外に目を転じるとさらに多くのことが分かってきます。米国最大の小売店であるウォルマートの売上高は何と53兆円もあります。国内市場ではコマツと米キャタピラーはライバルと思われていますが、キャタピラーの売上高はコマツの約2倍以上です。

 多くの人は、大手企業といって一括りにしてしまいがちですが、大手といっても企業規模は様々です。

 売上高が小さい会社と大きい会社で、企業戦略が異なるのは当たり前のことです。売上高の規模を把握しておくことは、あらゆる投資判断の基礎になると考えてください。

加谷珪一の投資教室もくじ

PAGE TOP