2020年1月に行われた世界経済フォーラムの年次総会2020(ダボス会議)では、気候変動と資本主義のあり方が主要な議題となりました。この会議には、10代の環境活動家であるグレタ・トゥーンベリさんも出席し、演説を行っています。
国内ではグレタさんに対する感情的な反発が強いようですが、グレタさんの活動の背景には、国際的な金融資本の動きがあり、地球環境問題とマネーの問題を切り離して考えることはできません。グレタさんのパーソナリティに惑わされているとグローバル経済の本質を見誤る可能性があります。
ここ数年で環境問題を取り巻く状況は180度変わった
地球環境問題は人類にとって重要なテーマではありますが、これまでは十分な議論が行われているとは言い難い状況でした。その理由は、先進国と途上国の利害対立という障壁が存在していたからです。
先進国はすでに豊かさを享受していますから、環境問題を解決する余力がありますが、このタイミングで環境問題を優先してしまうと、これから豊かになろうとする途上国が不利になってしまいます。この利害対立を解決することが難しかったことから、全世界的な対策がなかなか進まなかったのです。
ところが近年、社会のIT化が急ピッチで進んできたことから、状況が大きく変わりました。
IT経済においては、産業の限界コスト(一単位の生産量増加に必要なコスト)が限りなく低くなりますから、理論上、過去の経済水準に関係なく均等に経済を発展させることが可能となります。
従来であれば、道路、橋、鉄道、通信網など、インフラ整備には段階を踏む必要がありましたが、ITをフル活用すればこうした手順は必要なく、一気に、経済開発を進められるのです。AI(人口知能)が普及すれば、生産を極限まで拡大できる可能性すら見えてきます(AI経済については加谷珪一の超カンタン経済学第31回「AI(人工知能)が社会に普及すると経済成長はどうなる?」を参照してください)。
つまり、途上国と先進国の利害を調整できる可能性が見えてきたことから、環境問題について本格的に議論できる環境が整ってきたわけです。こうした時代の変化について、多くの日本人はあまりピンと来ていないのではないでしょう。
国際金融資本が狙う、環境問題という巨大ビジネスチャンス
社会のIT化は、さらに大きな力学を生み出しており、環境問題の議論を活性化させています。その力学とは全世界的な金利低下です。
このところ全世界的に金利の低下が続いていますが、直接的には、中央銀行による量的緩和策が原因です。しかしながら、もっと根源的な部分では、社会のIT化がその流れに大きな影響を与えていると考えられます。
近年、ウーバーなどのシェアリング・エコノミー企業が躍進していますが、この仕組みを使えば、既存の資産を流用するだけで、新しいサービスを開発できます。先端的な経済学の分野では、すでに議論が始まっていますが、経済のシェアリング化が進むと新規の設備投資が減り、その分だけ貨幣需要が減少し、金利の低下をもたらす可能性が指摘されているのです(貨幣需要と金利については加谷珪一の超カンタン経済学12回「金利は何で決まるのか」を参照してください)。
この動きによって、極めて大きな影響を受けるのが、これまで巨額の利益を上げてきた銀行や投資ファンドなどの国際金融資本です。彼等から見ると、地球環境問題というのは、巨額の資金を必要とする最後の産業分野であり、何としても環境問題を前進させ、そこへの投融資から得られる利益を確保したいと目論んでいます。
日本の金融機関も例外ではなく、各社は環境問題に取り組む企業への投融資を強化する「責任銀行原則」などに署名しており、グリーンボンド(環境債)への投資を強化している状況です。
私たちは、環境問題の盛り上がりの背後には、こうしたグローバル金融資本の動きが関係していることについてよく理解しておく必要があるでしょう。グレタさんの言動に感情的になって怒っているようでは、冷酷な国際社会で戦っていくことはできません。