経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. テクノロジー

ビットコイン価格がこのところ急上昇している背景

 このところビットコインの価格が上昇しています。フェイスブックが仮想通貨「リブラ」を発表したことや、米中貿易戦争の長期化懸念で、米国市場の先行きが不安視されていることなど、複数要因が関係していると思われます。

 筆者は積極的に仮想通貨への投資を推奨する立場ではありませんが、ビットコインが登場した当初から、仮想通貨は資産保全手段の一部として存続し得ると述べてきました。このところ、金価格とビットコイン価格の連動性が強まっていることも考え合わせると、資産保全手段としての活用がさらに現実的な段階に入ってきたのかもしれません。

現在の通貨制度は完璧ではない

 ビットコインの価格は、2019年4月の段階では1BTC=50万円代で推移していましたが、現在は120万円台まで高騰しています。2017年には一時、220万円まで高騰しましたが、その後、急激に価格は崩れ、30万円台まで下落していました。今回の上昇によって前回の半分まで戻した形です。

 ビットコインをはじめとする仮想通貨に対しては、どういうわけか感情的な批判が寄せられており、あまり冷静な議論ができない状況が続いてきました。
 筆者は仮想通貨が法定通貨を超える存在になるとはまったく思っていませんが、現在の通貨市場におけるごく一部の割合であるならば、仮想通貨が今後も存続できる余地があると考えています。その理由は、現在の通貨制度が、近代国家の枠組みを前提にしたものであり、国家を超えた安定的な通貨システムを構築できないという根本的な矛盾を抱えているからです。

 このため、もっとも勢力の強い国の通貨を基軸通貨とし、その国家が持つ経済覇権をベースに通貨の秩序を構築せざるをえないため、どうしても不安定な部分が残ってしまいます。ビットコインなどの仮想通貨は、こうした現代の通貨制度の隙間を埋める存在となり得るわけです。

bitcoinup

金の有力な代替手段になり得る

 ビットコインは、決済に使われないので通貨として存続できないと主張する人がいますが、それは通貨に対する認識が少々浅いと言わざるを得ません。ビットコインは、まだその価値がいくらなのか定まっておらず、一部の人は今後、値上がりする可能性があると考えています。

 もし、今後、値上がりが予想される通貨を持っていた場合、その人は当該通貨を決済に用いるでしょうか。当たり前のことですが、その答はノーです。価格の上昇を予想する人が一定数存在している以上、仮想通貨の本当の価値がはっきりしてくるまで、積極的に決済に使う人が現れないのは当然のことでしょう。

 加えて言うと、通貨には決済以外にも、価値の保存という用途があり、世の中には「金」という、価値の保存を目的とした究極的な通貨が存在します。金は日常的には決済には用いませんが、以前は金貨が標準的な通貨でしたし、金貨が使われなくなった後も、金本位制という形で通貨の基礎となってきた経緯を考えると、価値の保存にも大きなニーズがあることが分かります。

 金価格の歴史的推移を見ると、ドル価格が下落すると金が上昇するという明確な関係が観察されます。つまり金の価値というのは基軸通貨の価値と裏表の関係にあるわけです。筆者は以前から、仮想通貨は金の代替手段として使われる可能性があると述べてきましたが、このところのビットコイン価格は、金価格との連動性が高くなっています。

 ビットコインは金本位制の概念をベースにデザインされており、そもそもの設計思想として金との親和性が高い通貨です。もし金の代替手段としてビットコインの存在が意識されているのだとすると、このところの価格上昇は論理的に説明が付きます。

 米中貿易戦争の悪化で、金利の低下とドル安が進んでおり、ドルを中心とした通貨システムに対する信認は以前より低下しました。こうした信用悪化を背景に金が買われているのですが、これに連動する形でビットコインも買われている可能性が見えてきます。

 繰り返しますが、筆者はビットコインへの積極的な投資を推奨しているわけではありません。しかしながら、「法定通貨でなければ通貨ではない」「ビットコインは本質的に価値がゼロだ」といったような、思考停止してしまったようなスタンスには注意した方がよいと思っています。

 通貨というのは、現在の円やドルと同様、担保となる資産がなくても、多くの人が信用できると考ることで、通貨として成立するという側面があります。フェイスブックが新しい仮想通貨であるリブラを発表するという大きなニュースもありましたから、仮想通貨の動向は今後、要チェックといってよいでしょう。

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