高額所得者の行動パターンが大きく変化しています。日本は同質社会と言われ、超富裕層など一部の階層を除いて、所得に差があっても基本的なライフスタイルに大きな違いはありませんでした。しかしながら、今、起きている変化は所得の違いというよりも、行動様式そのものの変化ですから、事態はより深刻です。
以前は所得にかかわらず海外旅行に行く子どもは少なかった
高額所得者の行動パターンの変化で顕著なのは子どもの海外旅行です。これまでの時代であれば、小学生のうちからわざわざ海外に連れて行かなくてもよいと考える親は多く、所得が高い世帯でも、子どもを積極的に海外旅行に連れて行くことはありませんでした。
しかし近年は、高額所得者に限って、子どもの海外旅行頻度が急上昇しているのです。
2006年時点において、小学生が1年間に海外旅行に行く割合は、年収700万円まで数%とほぼ横ばいとなっており、1000万円以上で10%を超えるという緩やかな傾きでした。ところが2011年、2016年と時代が進むにつれて、年収1500万円以上の世帯に限って、子どもの海外旅行頻度が急上昇。2016年では何と25%となっており、小学生の4人に1人が海外旅行に行った計算になります。
このデータは社会生活基本調査で得られたものなので、海外に行った理由までは分かりませんが、おおよそ推測することができます。グローバルな行動様式を身につけさせるため、子どものうちから積極的に経験を積ませているものと考えられます。
日本にいるとあまり気付きませんが、諸外国では国籍や文化が異なる人たちがスムーズに共生するための共通の行動様式というものが確立しつつあります。これは従来の欧米流とは異なる、新しい時代のグローバルスタンダードですが、ガラパゴスといわれる日本国内では、なかなかこうした行動様式を身につけることができません。
経済格差ではなく社会格差
以前の日本では高額所得者というと開業医や中小企業のオーナーなどが思い浮かびましたが、今、海外に積極的に子どもを連れ出している層はこれとは少し異なるかもしれません。この調査は年収1500円以上はひとくくりですが、例えば、夫婦が外資系企業に勤務するエリートの場合、世帯年収は3000万円を超えることも珍しくありません。
こうした世帯はグローバル化にも関心が高いですから、子ども積極的に外に連れ出す可能性は高いでしょう。
今、世界ではITの急速な普及によって、スキルの高い人の行動様式が限りなく似てくるという現象が顕著です。子どものうちからこうした行動様式に慣れていた人とそうでない人には大きな差がつくことになります。
これまでの時代は、先進国に生まれた人と、途上国に生まれた人に格差が生じていたのですが、今後は様子が違ってくると思われます。どの国であれ、高度なスキルを身につけた層と、そうでない層との格差が拡大するという図式が顕著になるでしょう。
これは経済格差というよりも、むしろ社会格差ですから、是正するのは容易なことではありません。格差を拡大させないためには、多くの人にスキルアップを提供する機会を与える政策が必要です。