経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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日産が会長職廃止を目論む理由

 日産自動車が新体制に向けて動き始めました。注目されていた会長ポストは、廃止される可能性が高くなっていますが、スナール氏が会長に就任することを避ける意図があることは明白です。

ゴーン氏が不正を働いたのだとすると現経営陣にも責任がある

 日産自動車は2019年4月8日、臨時株主総会を開催し、カルロス・ゴーン前会長の取締役解任と仏ルノーのジャンドミニク・スナール会長の取締役就任を決定しました。会長のポストは現在、空席となっていますが、同社のガバナンスについて検討してきた「ガバナンス改善特別委員会」は会長職を廃止するよう提言する報告書をまとめています。

 権限集中による不正行為を防ぐためというのがその理由ですが、会長がルノーから派遣されることを避けたいという意図があることは明らかでしょう。

 報告書を作成した委員会は、同社の社外役員に外部の有識者を加えたメンバーで構成されていますが、この委員会の立ち位置は微妙です。

 ゴーン氏が会社を私物化して不正を働いたという話が本当であれば、ゴーン氏以外の経営陣が関係していないはずはなく、それをチェックできなかった他の役員も大きな責任を負っているはずです。そうなってくると、現経営陣は、後任人事や経営体制を含め、その後の展開について直接、関与すべきではないという結論にならざるを得ません。

 その経営陣が招聘した外部の有識者の報告書は、経営陣の意向を反映した内容となる可能性が高くなり、あまり説得力を持ちません。実際、同委員会が出した結論は会長職を廃止するという陳腐なものでした。

nissansoukai

報告書に見られる意味不明の記述

 報告書では会長職について「会長職が業務執行の監督だけでなく業務執行そのものを担うケースもある」「そのため会長職が企業の最上位職であり、会長以外の取締役、執行役その他役職員に対する指揮命令等の権限を有すると捉えられる可能性がある」とし、「日産における会長職はその一つの実例で、ゴーン氏による権限集中の象徴としての印象が強い」と説明しています。

 しかしながら、この記述はまったくもって意味不明です。

 ゴーン氏は2003年から2017年まで会長兼社長兼CEO(最高経営責任者)であり、取締役会の議長と執行のトップを兼務していました。執行のトップであるCEOだったからこそ、組織における指揮命令権を持っていたのであって、会長職が世間に与えるイメージとは何の関係もありません。

 さらに報告書では、「ゴーン氏による権限集中のイメージは本提言を期に払拭すべきある」として会長職の廃止を求めていますが、ゴーン氏に対する権限集中を認めてきたのは、他ならぬ現経営陣です。

 報告書はコーポレートガバナンスの原理原則から大きく逸脱しており、極めて異質なものです。会社の経営責任を誰が負うのかを曖昧にした、まさにガラパゴスな考え方といってよいでしょう。日産はルノーの傘下に入ったことでグローバル企業というイメージが出来上がりましたが、完全に旧来型の日本企業に戻ってしまったようです。

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