政府が風力発電など再生エネルギー分野をインフラ輸出の重点分野にする方針を固めたと報道されています。日立製作所や三菱重工など、日本の原発メーカーの海外輸出プロジェクトが相次いで頓挫していることから、風力に切り替えるという話ですが、インフラという長期戦略が必要な分野において方針をコロコロ変えるというのは、合理的な選択なのでしょうか。
トルコや英国でのプロジェクトが相次いで頓挫
安倍政権は原発輸出を国策として掲げ、日本メーカーは相次いで海外の原発プロジェクトを立ち上げました。しかし、三菱重工が、政府と一体になって進めていたトルコの原子力発電所の建設計画を断念する方針を固めたほか、日立製作所が英国で進めていた原発建設も撤退が決まりました。最大の理由は、コストが膨れ上がり、採算が取れない可能性が高まってきたからです。
一般的に原発のコスト上昇は福島第1原発をきっかけにした安全基準の変更が原因とされていますが、ライフサイクル・コストを考えた場合、原発はそもそも割高になっているという話は、福島の事故以前から業界ではかなり議論されていました。
欧州の総合メーカーである独シーメンスは2011年に原発から撤退。米ゼネラル・エレクトリック本体も原発からはほぼ手を引いた状態にあります。GEは沸騰水型原発(BWR)の技術を開発した原発メーカーの頂点に立つ会社であり、東芝や日立といった日本メーカーはGEからの技術導入で原発事業に参入したという経緯がありますから、まさにGEは日本の原発技術の育ての親です。
そうした本家本元の企業が手を引いているという現実を考えると、ビジネスとして成立させるのは難しい状況になったと考えるのが自然でしょう。今や、原発で利益を上げられるのは、中国やロシアなど、採算を度外視して輸出を進める特殊な国だけとなっています。
結果として、トルコや英国の原発プロジェクトも、採算が合わないという理由で撤退という結果になってしまいました。
インフラ輸出は長期的な戦略が必要
今回の風力への切り替えはこうした事情から決断されたものと思われますが、こうした場当たり的な戦略変更は決してよい結果をもたらさないでしょう。
原発輸出の推進という国策が失敗したのは、原発ビジネスのトレンドを見誤った結果であり、これは明らかな戦略ミスですが、戦略でミスしたので、とりあえず方向性を変えるというのは、経営学的にはやってはいけないことです。原発から撤退した欧米のメーカーは10年以上も前から、再生可能エネルギーにシフトし、関連技術を蓄積しています。
今からこの市場に参入すれば、日本メーカーは価格で勝負するか方法がなくなってしまいます。場合によっては、今回と同じ失敗を繰り返してしまう可能性もあるでしょう。
原発輸出に失敗したのは事実ですから、これを教訓に、グローバルなエネルギー市場の動向を再度、分析し。これからの20年を見据えて、何をすべきか検討するのが正しいやり方です。
ネットビジネスのように、初期投資がかからず、すぐに方向転換ができる業態なら、朝令暮改はむしろ推奨されるべきことですが、インフラに関連したモノ作りはそうはいきません。原発輸出の頓挫で厳しい状況ですが、こういう時こそ、短期的な判断はするべきではないでしょう。