経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 金融

東証が本格的な株式市場改革に乗り出したが・・・・

 東証が、株式市場の抜本的な改革について検討を開始しました。現時点ではあくまで検討レベルですが、場合によっては、東証1部上場企業の7割が降格になる可能性もあるという、本格的なものです。
 日本の株式市場は、長年にわたって「ぬるま湯」体質に浸りきっており、このままでは市場としての機能を失ってしまいます。実現へのハードルは高いと思われますが、東証が目指す方向性は間違っていないでしょう。

東証1部上場でなければ一流企業ではないという奇妙な文化

 東証は現在、東証1部、東証2部、ジャスダック、マザーズという4つの株式市場を運営しています。今回、再編の焦点となっているのは1部と2部、そしてジャスダックとマザーズの区分です。

 1部と2部は、時価総額や株主数で区分されており、基本的に時価総額の大きい企業が1部に上場するという仕組みですが、この基準は形骸化しています。現在、1部と2部に上場している企業数は約2600社ですが、このうち8割が1部上場となっており、2部の存在意義がなくなっているのです。

 しかも1部上場といっても、時価総額の大きさにはバラツキがあります。トヨタ自動車の時価総額は約20兆円ですが、小さい企業ではたったの数十億しかありません。同じ1部上場といいながら、数千倍の差がついているとうのは、どう考えても無理があります。

 これは、1部昇格のハードルを下げすぎたことが原因なのですが、こうした事態が発生していることの背景には、日本の異様な社会風土があります。

 1部と2部の違いはあくまでも時価総額の違いでしかありませんが、日本ではこれが「格」の違いという話になってしまいます。つまり1部上場していないと一流企業とみなされないので、多くの企業が盲目的に1部上場を目指すというわけです。これでは、市場の本来の目的である資金調達機能がうまく機能しないのも無理はありません。

 そもそも日本の場合、諸外国と比較して上場企業の数が多すぎるという問題があります。

 東証1部の時価総額は約600兆円、ニューヨーク証券取引所(NYSE)は2700兆円と4倍以上の開きがありますが、ニューヨーク市場に上場している企業数はわずか2400社しかありません。1部上場の時価総額基準を高くすることは必須の課題といってよいでしょう。

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このままでは安心して国民の資産を委ねられない

 新興企業向けの市場にも問題があります。ジャスダックはもともと店頭市場を起源としており、東証が運営していた市場ではありません。一方、マザーズは新興企業に特化する目的で東証が設立したものです。もともと違う市場でしたら、両者の再整理は必須といってよいでしょう。

 これに加えて新興企業向け市場にも1部と同じ問題が発生しています。マザーズの上場要件はかなり緩く、一部の証券会社は、上場の引受手数料欲しさに、体制が十分とはいえない企業の株式まで引き受けているのが実態です。今やマザーズは世界の中でも、もっとも簡単に上場できる安易な市場のひとつとなってしまいました。

 短期的には多くのベンチャー企業が上場できるので、証券業界は潤うかもしれませんが、長期的に見れば、市場の信頼性を損ねる結果となりかねません。東証ではジャスダックと2部を統合した上で中堅企業向け市場を創設し、大企業向けの1部市場と新興企業向けのマザーズという3市場体制にすることを検討しているようです。

 日本では証券市場改革の必要性が叫ばれながら、現状維持が最優先されてきました。このため日本の株式市場は、すでにアジアのローカルマーケットのひとつに転落しつつあります。
 年金財政が厳しくなっている今、多くの国民にとって資産形成は必須の状況となっていますが、今の株式市場の状況では、お世辞にも国民の財産を生涯にわたって預けられるほどの信頼性を持っているとはいえません。

 東証が目指している改革の方向性は、おおむね正しいものですが、改革にはかなりの反発が予想されます。ここで思い切った改革ができるのかで、日本の資本市場の将来が決まるといっても過言ではないでしょう。

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