加谷珪一の超カンタン経済学 第30回
これまで説明してきた経済分析の手法は、比較的、短期の動きに焦点を当てたものです。金利が下がると投資が増え、GDPが増えるというのはその典型的なパターンです。しかし、従来型のモデルでは長期的な成長の原動力がどこにあるのかまでは説明していません。長期的な経済成長に対するひとつの見方を示しているのが、生産関数と呼ばれるものです。
経済成長は、カネ、ヒト、テクノロジーで決まる
経済学の世界では、生産力を決める要素は大きく分けて3つあると考えます。ひとつは資本(お金)、もうひとつは労働(人)、最後はイノベーション(技術革新)です。極論すると、たくさんお金を投じて、人が働き、そこにイノベーションが加わると経済は大きく成長します。
しかしながら、むやみにお金や人を投じればよいというものではありません。
例えば、企業が生産を拡大しようとする場合、人を増やすのか、設備を増やすかの選択を迫られることになります。そこで設備を2倍にすれば生産量が2倍になるのかというとそうはいきません(製品が売れなかったという話はここでは無視します)。設備を増やしても、それを動かす人が追いつかないと、効果が薄れてきてしまうのです。
これは工場の自動化を想像すれば分かりやすいでしょう。
最初は2人で1台しか機械を使えなかったところに、追加で投資を行って1人1台にすれば生産できる製品の数は増えます。しかし、1人2台になったとしても、生産量が2倍に増えるわけではありません。
機械も人が動かすものである以上、その機械が十分に稼働できるよう人を雇う必要が出てくることになります。つまり、人と機械は相互に投入しなければ順調に生産を拡大することはできないわけです。
技術革新の影響は特に大きい
この状態を数式で示したものが生産関数です。生産関数にはいろいろなパターンがあるのですが、もっとも多く使われているのはコブ・ダグラス型関数と呼ばれるものです。
この式で、Kは資本(設備投資)、Lは労働量(従業員の労働)、αは資本分配率を示しています。資本分配率と労働分配率は対称関係にありますから(1―α)は労働分配率を示しています。Aは全要素生産性と呼ばれ、イノベーションの度合いを示します。
この式にいろいろな数字を当てはめてみると、資本を増やしたり、労働を増やしていくと、最初は生産量が伸びますが、やがてその伸びが鈍化してくるような曲線を描きます。
ここで重要なカギを握るのがイノベーションです。より少ない労働で同じ機械を動かせるのであれば、資本を投じてたくさんの機械を設置することができるようになります。最終的に経済成長のカギを握っているのは、このイノベーション(全要素生産性)なのです。
整理すると、お金や人が豊富でイノベーションが活発な国がもっとも高い成長を実現します。日本は人口が減少しているので「人」の部分では不利になります。日本が成長するためにはイノベーションの活性化が重要であることが分かります。
加谷珪一の超カンタン経済学もくじ