経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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年収1000万円の人の生活が苦しい理由

 年収1000万円の人の生活が話題になっています。年収1000万円でも貯金がほとんどなく、カツカツの生活をしているという実態が、雑誌の特集などでよく取り上げられているようです。

年収1000万円超の人は全体のわずか5%

 年収1000万円なのに生活が苦しい人が多いというのは、おそらく事実です。
 年収1000万円以上を得ている人は、日本にはわずか1800万人しかいません。これは給与所得者全体のわずか4%です。上位4%の恵まれた人たちの生活が苦しいというのはどういうことなのでしょうか?

 これは日本の税制が大きく影響しています。日本は所得が高くなるほど税金が高くなる累進税率という制度になっています。給料が安ければ安いほど、税金がかからない仕組みなっているわけです。

 例えば年収300万円以下の人の現実的な所得税率は1.5%以下で、実質的には無税といった状況です。この状況は年収が700万円になっても同じで、やはり2.5%しか所得税はかかっていません(ここで示したのは、各種控除後の現実の税率です)。

 これが1500万円超となると、何と12.9%も税金がかかってきます。これはあくまで所得税ですから、地方税や年金や医療保険の徴収などを含めると、相当な割合が給料から差し引かれてしまいます。つまり日本では年収が2倍、3倍になったからといって、実際に手にするお金が2倍、3倍になるわけではないのです。

 ところが、年収が比較的高い人は、自分はお金持ちだと錯覚してしまい、2倍年収があれば2倍、あるいはそれ以上の支出をしてしまいます。結果として、高給取りなのに生活が苦しくなるという状況に陥ってしまうわけです。

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 同じ年収1000万円でも夫婦共働きの家庭の場合にはずいぶん状況が違います。
 ダブルインカムで世帯年収がさらに増えるということもあるのですが、仕事を持っていると、実はそれほどお金を消費する時間がありません。せいぜい週末に多少大きな出費をする位です。家や自動車にムダなお金をかけなければ、お金は貯まる一方ということになります。

 しかし年収1000万円の専業主婦世帯はそうはいきません。奥さんは家にいますから、基本的にお金を消費する一方になります。ご近所さんとの見栄の張り合いもあるでしょうが、家事を完璧にこなすのは実はかなり大変でストレスがかかるものです。結果的に、奥さんは家に対する出費が多くなってしまうのです。

仕事に追われている方が出費が少なくなる

 こうした少々苦しいリッチ族の家には、必ずといってよいほど取り替え式のウォーターサーバーが置いてあるという笑い話もあります。
 旦那さんも同じようなもので、年収1000万円あたりが、高級外車など、見栄を張りたくなってくる初期段階なのかもしれません。

 この話はお金と人間の行動に関する興味深い事実を教えてくれます。人間は忙しい状態にあると、それほど消費欲は出てこないのです。
 もちろんあまりにも急がしてくストレスが溜まるようであれば、逆に散財してしまうということもあるでしょうが、仕事に追われる共働き夫婦の方が実は生活が地味だったりするわけです。

 お金を持っている人はさらにリッチになるといわれますが、このあたりにも関係ありそうです。お金を稼ごうと必死に働いている人は忙しいのであまり散財する時間がなく、結果的にさらにお金が貯まっていくというメカニズムです。
 逆に考えれば、お金を貯めようと思ったら、とにかく夢中になれる仕事を探すことが近道ということにもなります。

 お金をためるには、支出と収入の両方をコントールしなければなりません。どちらか一方ではダメだということがよく分かります。

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