前回は、貿易戦争が勃発すると、最初にインフレという形で影響が顕在化する可能性が高いという話をしました。今回は、具体的に米国経済にどのような兆候があわれているのか、検証してみたいと思います。
素材メーカーが増収増益となった理由
米国政府が関税をかけているのは、鉄鋼やアルミといった素材が中心で、最終製品ではありません。したがって最初に業績に影響が出てくるのは、素材メーカーである可能性が高いでしょう。
米国では7~9月期の四半期決算が出揃っていますから、関連企業の業績を見れば、何か分かるかもしれません。
アルミ大手アルコアは売上高が前年同月比14%の増収、粗鋼大手ニューコアは30%の大幅な増収でした。同様にスチールダイナミクスも大幅増収となっています。
増収となった最大の理由は、生産量の拡大と価格の上昇です。
つまり多くの注文が舞い込んだことから、生産量が増え、価格も上昇したということです。おそらく、これは素材を購入する資本財のメーカーなどが、中国産から米国産への切り替えを進めたことが原因と考えられます。前回、考察したように、自国産への切り替えで国内にお金が落ちていることが推察されます。
価格が上昇したということは素材メーカーにとってはよいことですが、これらを購入する資本財のメーカーや消費財のメーカーにとってはコスト増になってしまいます。
じわじわとコストが上昇している?
工業製品大手の3Mは、売上高は横ばいでしたが、製品の原価率は上昇しています。企業全体としてはコスト削減で増益でしたが、原価の上昇は今後の経営に影響を与えるでしょう。一方、消費財のメーカーには目立った影響は出ていないようです。
現段階では貿易戦争の影響はまだ最終製品には及んでいないと考えられます。
しかし、資本財メーカーもいずれ原価の上昇分を価格に上乗せし、最終製品の価格も上昇していくでしょう。このままの状況が続けば、やはりインフレが進む可能性は高いと思われます。
そうなってくると今後の米国経済の動向を握るのは金利ということになります。
米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、今後の金融政策のオプションを拡大するため、もう少し金利を引き上げたいと思っています。しかし貿易戦争の影響でインフレが進みやすいところで、下手に金利を上げてしまうと、インフレが予想以上に加速するリスクもあります。
米国経済は足元の景気と金利、そして貿易戦争が複雑に絡み合う、少々面倒なフェーズに入ってきたのかもしれません。