皇族が出産に利用するなど、セレブ出産病院として知られている愛育病院が、今年の10月に現在の所在地である東京都港区南麻布から、同じく港区の芝浦に移転します。
同病院がセレブ病院といわれているのは、その設立された経緯にあるのですが、「超」のつく高級住宅地である南麻布に位置していることも大きく影響しているはずです。
芝浦への移転は、ブランド戦略上マイナスになりそうな気もするのですが、このあたりはどう考えれよいのでしょうか?
移転先はどんな場所か?
愛育病院は、もともと現天皇陛下の出産を記念して、皇室から下賜された基金をもとに設立された病院です。
皇族の利用も多く、秋篠宮妃紀子さまが悠仁さまを出産したことでも知られています。ちなみに紀子様は愛育病院の運営母体である恩賜財団母子愛育会の総裁もつとめられています。
港区の南麻布という超高級住宅地のど真ん中、隣は有栖川宮記念公園という絶好の立地条件となっており、まさにセレブ病院として有名になるために生まれてきたような病院といってよいでしょう。
しかし、同病院の新しい移転先は同じ港区ではありますが、海にほど近い芝浦地区。かつては倉庫などが点在していた場所であり、セレブ病院が立地する場所という感じではありません。
だが、芝浦への移転は同病院の経営戦略には大いにプラスに作用すると考えられます。それは芝浦という場所には、同病院にとって理想的な顧客が数多く住んでいるからです。
芝浦地区は隣接する港南地区と並んで、ここ10年でタワーマンションの建設が一気に進んだエリアです。
港区の伝統的な高級住宅地は、愛育病院がある麻布など比較的海抜の高い地域に集中しています。しかし、こうしたエリアには、新しく大型マンションを建てるスペースはありません。
このため、新規に建設されるマンションの多くは、従来はあまり高級とはいわれていなかったエリアにタワーマンションとして建設されることになりました。これが、今のタワマンブームというわけです。
ブランドというものの本質
こうした新しいタワマンは戸数が多く、価格帯も様々です。高層階には億を超える高額物件がひしめいていますが、低層階を中心とした安い価格帯の物件は、庶民でも頑張れば何とか手に入る金額のものも少なくありません。
こうした物件には、セレブな生活に憧れる中間層が多数入居しているといわれ、高額なベビーカーやウォーターサーバーなどを販売する絶好のターゲットといわれているのです。
つまり、芝浦地区のタワーマンションには、セレブな生活に憧れ、これから子供を産むという世代の夫婦が、多数、移り住んできているわけです。これは、ブランド医院である愛育病院にとっては最高の顧客層ということになります。
彼等は愛育病院のブランドを高く評価し、多くのお金を落としてくれるでしょう。全国的には少子化で子供向けのビジネスは苦しい状況にありますが、こうした一部の市場では、逆に、潜在顧客は増える一方なのです。
移転を決断するきっかけとなったのは、再開発を主導する港区からの提案だといわれていますが、同病院がこの計画を受け入れ、移転を決断した背景には、このような理由があるのです。
欧米の一流ブランドが、日本で大衆路線に走っていることに対して眉をひそめる人は少なくありません。愛育病院についても、かつての同病院を知る人からは否定的な意見も聞かれます。
しかし、ブランド・ビジネスというものの本質は、上流にあこがれる中間層をどれだけ囲い込めるのかという点に集約されるのです。その意味では、欧米ブランドの日本戦略や愛育病院の展開は、正しい方法といってよいでしょう。