経済財政運営の基本方針(いわゆる骨太の方針)に、外国人労働者の受け入れ拡大が盛り込まれました。今後、5つの分野で50万人以上の労働者を受け入れる方針です。
政府は移民政策ではないと説明していますが、従来の受け入れ方針とは大きく異なっています。日本は事実上、移民政策に舵を切ったと考えるべきでしょう。
場当たり的な対応がとうとう限界に
日本はこれまで、外国人労働者の受け入れについては、建前上、高度な専門知識を持つ人材に限るとしてきました。しかし、企業の現場では、単純労働に従事する外国人がいなければ業務が回らないというのが現実であり、実際に日本での就労を希望する外国人のほとんどが単純労働者です。
政府は矛盾した状況に対処するため、技能実習という制度を設け、あくまでも実習という名目で単純労働に従事する外国人を受け入れてきました。
しかし、この技能実習制度をめぐっては賃金の未払いや劣悪な労働環境など、海外から奴隷労働であるとして批判されるケースも出ていました。こうした場当たり的な対応はもはや限界に来ており、政府はとうとう本格的な受け入れに舵を切ったわけです。
しかし、政府は今回の受け入れ拡大について、あくまで外国人労働者の受け入れであって、移民政策ではないと主張しています。
基本方針では、在留期間を5年に制限し、家族の帯同は基本的に認めないとしています。つまり、単身で日本に来て、期限が切れたら帰国するのが条件ということですが、このような自分たちだけに都合のよいシステムは基本的に機能しないと考えた方がよいでしょう。
労働に対する意識が高く、日本の習慣も理解できる高い能力を持った労働者なら、家族と暮らすという、人間として当たり前の生活を望むはずです。したがって、この制度を厳格に運用すれば、レベルの高い労働者を確保することが難しくなってしまいます。
移民と外国人労働者の問題を切り離すことはできない
一方、在留資格などの制限を緩めれば、日本にやってきた外国人労働者の一部は、日本に定着するようになり、日本人が望むと望まざるとにかかわらず、移民社会が形成される可能性は高まるでしょう。
人は長期間、同じ地域で生活を続けていれば、そのコミュニティの一員となるものです。都合のよい時だけ働いてもらって後は追い返すというのは、よほど非人道的な措置を取らない限り難しいと考えるべきです。
ちなみにシンガポールでは、単純労働に従事する外国人労働者に対しては、女性の場合、妊娠が発覚すると即座に強制送還するなど厳しい措置を取っており、諸外国から人権侵害であると批判されています。シンガポールは豊かな国ではありますが、あくまで独裁国家であり、日本や欧米のような真の民主社会ではありません(日本も最近、怪しくなっていますが)。
シンガポールのような政策を実施することはできませんから、今回、提示された外国人受け入れの方針は、絵に描いた餅になる可能性が高いでしょう。
移民というのはデリケートな問題であり、場当たり的な対応は許されません。本格的に外国人労働者を受け入れるのであれば、日本社会への同化支援や、人権擁護の徹底など、完全な移民政策として実施する必要があるでしょう。
このまま中途半端な形で外国人労働者を大量に受け入れれば、日本人にとっても、日本にやってきた外国人労働者にとっても不幸な結果になるのは目に見えています。