加谷珪一の投資教室 実践編 第11回
本コラムではたびたび、市場が誰かにコントロールされていることはないと説明してきましたが、この話にはひとつだけ例外があります。それは政府です。
アベノミクス相場は100%予想できた
政府は市場をコントロールできる存在ではありませんが、政策がもたらす影響は大きく、政策が大きく動いた時は、しばらくの間は、関連相場が続くことになります。
アベノミクス相場における株価上昇は、かなりの部分が政府と日銀によって演出されたのは紛れもない事実といってよいでしょう。もっとも影響が大きかったのは、コーポレート・ガバナンス改革と公的年金の買いでした。
安倍政権は成長戦略の一環として、コーポレート・ガバナンスの強化策を打ち出しました。この動きを受け、東証は新しくコーポレート・ガバナンス・コードを策定、2015年の6月から上場企業への適用を開始しました。新しい上場ルールには、株主価値の増大が明記され、各企業は株主還元策の強化を迫られたわけです。
これに加えて日本最大の機関投資家である公的年金が、株主価値を重視する企業に対して積極的に投資する方針を打ち出しました。背景には、苦しい状況が続く年金財政を好転させるため、運用のポートフォリオを債券から株式にシフトするという安倍政権の基本方針があります。
年金の支払いが苦しいので、リスクの高い株に投資し、株価が上がるよう企業にはROE(株主資本利益率)の向上を求めるというのが現在の基本的な図式といってよいでしょう。
政策の善し悪しと相場は関係ない
一連の施策については、事実上の「官製相場」であるとして、様々な批判や意見が出ました。筆者自身も、政策としては、あまりスジの良いものだと思っていませんが、それと相場の話は別問題です。施策の導入をきっかけに、企業はROE向上策を次々と発表し、公的年金はこうした日本企業の株を買っていきました。
アベノミクスがスタートした時点において、公的年金は130兆円ほどの資金を運用していましたが、20兆円近くの資金が一気に市場に流れ込んだ計算です。
東証の時価総額が500兆円程度だったことを考えると、これはかなりの数字であり、普通の投資家が勝てる相手ではありません。株を売る投資家が出てきても、買いの規模が大きく、株価は上がらざるを得ません。株式市場には「政策に売りなし」という格言がありますが、まさに格言通りの相場となったわけです。
アベノミクスのスタート以降、一部の投資家が確信を持って買い進めることができた背景には、このような事情があります。筆者もアベノミクスと前後して、国内株を一気に買い増して、大きな利益を上げることができました。
このような時、株価は上がり過ぎているといって「売り」に傾けてしまっては、ほぼ100%、負けの勝負となってしまいます。このような人は、自覚することなしに政府と戦争をしてしまっているようなものなのです。
繰り返しますが、相場が上昇することと、その政策が良質であることは必ずしも一致しません。トランプ相場がその典型ですが、政策としてはあまり良くないものであっても、株価の上昇材料になるなら、迷わず投資するのが投資家としての正しい姿です。