経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 投資

過去の相場を理解することは何よりも重要

加谷珪一の投資教室 実践編 第5回

 投資で成功するためには、過去の相場を知ることが何よりも大事なのですが、世間ではそう思われていません。投資で儲かっていない人ほどその傾向が顕著です。

なぜか人は過去の話を嫌う

 過去の相場の話をすると、多くの人が「今とは状況が違うから」といって聞く耳を持とうとしません。しかし、本気で投資に取り組もうと思っている人にとっては、これは大きなチャンスといえます。多くの人が過去に興味を示さないということは、ここに完璧な情報の非対称性が存在しているからです。

 確かに時代が変われば、市場の環境や技術動向も変化します。しかしながら、過去の値動きは参考にならないのでしょうか。筆者はそうは思いません。それどころか、株式市場の動きを決める基本的な要素は時代が変わってもほとんど変化しないと考えています。

 歴史的に見ると、日本の株式市場は国際収支の変化が大きな相場の転換点となるケースが多いことが分かります。

 神武景気が始まる1955年には、初めて国際収支が黒字に転換し、日本経済の体質転換がより顕著となりました。株式市場はこうした状況を如実に反映し、長期の上昇相場を形成しています。

 80年代のバブル相場は、日本の巨額の貿易黒字や過剰流動性がその背景になっていましたが、今回のアベノミクス相場も、貿易収支の変化と過剰流動性が大きく関係しています。つまり相場の背後には共通したテーマが存在しているです。

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株価だけを見てバブルと判断してはいけない

 イノベーションも同じような効果をもたらします。1960年代のいざなぎ景気による株高は、イノベーションが相場のきっかけとなりました。当時、もっともインパクトが大きかった技術は自動車とカラーテレビです。

 特に自動車が社会に与えた影響は大きく、世の中ではマイカーブームが沸き起こりました。

 1965年時点で100円台だったトヨタ自動車の株価は、いざなぎ景気終了後の1973年には700円に迫る水準まで上昇していました。自動車の本格普及が始まる前の1950年代から投資していたら株価は何と65倍です。

 急激な株価上昇が発生すると、すぐにバブルだといった批判が出てくるのですが、重要なのはその技術や企業が普及するのかであって、その時の株価ではありません。トヨタ株は65倍になった後も、さらに上昇を続けて今に至っていますが、トヨタの株価をバブルだという人はいません。

 ネットバブルが最盛期だった2000年当時、株価が何倍、何十倍にもなる銘柄が続出していました。ネット企業の中には、実態が伴わず、最終的に株価が暴落してしまったものもありますが、残った銘柄はさらに株価が上昇しています。

 つまり、ネットバブル崩壊後も成長を続けることができた企業の株価は、今の水準からみれば特に割高という状況にはなっていないのです。期待された利益成長を実現することができれば、どんなに高い株価も最終的には帳尻が合うようになっているものです。繰り返しますが、重要なのは株価ではなく、その技術や製品が普及するかどうかです。

 こうした話は過去の相場を知っている人にとっては常識なのですが、多くの市場参加者がそれを理解していません。そして株価が高騰するたびに「バブルだ!」と根拠のない批判を繰り返しているだけです。過去を知っている投資家にとって、バブルというのはいつの時代にも発生するものであり、投資家としてはそれをうまく利用するだけです。

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