経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 政治

朝鮮半島の非核化が実現した場合、日本をとりまく環境はどう変わる?

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長の会談が実現しました。締結された「板門店宣言」には、南北共通の目標として、朝鮮半島の「完全な非核化」が盛り込まれました。南北会談が実現したことで、今後の焦点は、6月に実施されるといわれる米朝会談に移ることになります。

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現時点において北朝鮮は本気である可能性が高い

 金正恩氏は2018年4月27日、板門店にある南北の軍事境界線を歩いて越え、韓国側に入りました。その後、韓国側にある「平和の家」で首脳会談が行われ、両国は板門店宣言に署名しました。

 宣言には朝鮮半島の「完全な非核化」が盛り込まれており、もし実現すれば歴史的快挙です。北朝鮮の最終的な交渉相手は米国ですから、6月にも実施される予定の米朝会談が今後の最大の焦点ということになります。

 問題は北朝鮮がどの程度、本気なのかという点ですが、少なくとも現時点においては、かなり前向きと考えてよいでしょう。
 北朝鮮は完全な独裁国家であり、独裁者が最終的に望むことはただひとつ、体制の維持とそれを可能にする資金源の確保です。トランプ政権は、この2つを認める方針を示しているはずであり、米国による履行が保証されるのであれば、核を放棄しても十分にお釣りがきます。

 また今回の会談が韓国側で行われたことも北朝鮮の本気度を示しています。

 板門店の北側に十分な施設がないといった、実務的なことが理由かもしれませんが、国民の前にすらほとんど姿を見せない独裁者が、世界が注目している韓国側の施設で会談することは、それだけでリスクとなります。

 実際、金正恩氏が宣言に署名する際には、北朝鮮の保安要員が暗殺を警戒し、椅子や机、ペンなどを消毒しましたが、それでも金氏は韓国側が用意したペンを使わず、妹の金与正(キム・ヨジョン)氏からペンを受け取って署名するという場面が見られました(写真)。

 韓国側での会談を受け入れたということは、少なくとも交渉を前に進めたいという強い意志があることは間違いありません。

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朝鮮半島の非核化が実現した場合、日本にとって厳しい時代となる

 今回、南北首脳会談が実現したことで、焦点は米朝会談に移りました。もし米国が提示した条件を北朝鮮側が受け入れれば、朝鮮半島の非核化が現実的に動き出すことになります。

 仮に米朝合意が成立しても、一気に非核化が進むほど状況は単純ではありません。しかしながら、東アジア情勢が大きく変化することは間違いないでしょう。

 旧ソ連が消滅した今、米国にとって東アジア最大の脅威は北朝鮮です。中国は多くの面で米国と対立していますが、米国は基本的に中国を敵国とはみなしておらず、ビジネス上の交渉相手と認識しています。
 したがって朝鮮半島が非核化に向けて動き出せば、東アジアに展開する米軍の位置付けが変化することはほぼ確実です。当然のことながら、在韓米軍と在日米軍の役割も大きく見直されることになるでしょう。

 朝鮮半島をめぐる安全保障の問題が緩和されれば、米国と中国の交渉は一気に進みやすくなりますが、同時にこの動きは、東アジアにおける日本の存在価値の低下につながる可能性があります。

 戦後の日本は、米国と旧ソ連が対立してきたことで(旧ソ連崩壊後は、米国と中国が対立してきたことで)、米国との友好関係を維持できたという側面が多分にあります。

 しかし米国と中国が対立ではなく、交渉というフェーズにシフトした今、誤解を恐れずに言えば、日本は米国にとって必要性を感じない国となりつつあります。朝鮮半島問題が解決すれば、その傾向にさらに拍車がかかるでしょう。日本は今後、極めて難しい舵取りが要求されることになります。
 北朝鮮問題についてより詳しく知りたい方は、以下の過去記事も参考にしてください。

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